さんきゅー俳句

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散文

虎落笛初代中村勘三郎

冷たい風が吹き抜け、柵や竹垣を震わせながら、鋭い笛のような音を立てる。虎落笛(もがりぶえ)――冬の風が奏でる、寂しくも張り詰めた響き。その音を聞きながら、ふと初代・中村勘三郎の名を思う。江戸の芝居小屋に響いたであろう、彼の声や足音。その舞台...
散文

観客も演者もおらぬ冬の虹

冬の空に、ふいに虹がかかっていた。冷たい雨が過ぎ、雲間から差し込んだ光が、ほんの一瞬だけ色を結んだのだろう。けれど、そこには誰の歓声もなかった。観客も演者もいない、静かな舞台の上で、虹はただ淡く存在していた。夏の虹ならば、誰かが空を指さし、...
散文

秀吉の目線の先の寒椿

冬の澄んだ空気のなか、秀吉を祀る寺の庭を歩く。石畳の先に、ひときわ鮮やかな赤が目に入る。寒椿の花だ。冬枯れの景色のなか、その色だけが際立ち、凛と咲いている。もしも秀吉がここに立っていたなら、彼の目には何が映るだろうか。天下を手にした男の視線...
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散文

境内に夢の一字や寒鴉

神社の境内に、一枚の木札が風に揺れていた。絵馬に記された文字は「夢」。誰が書いたのかもわからぬその一字が、冬の冷たい空気の中で、静かに佇んでいる。枝を払われた木々の間を、寒鴉が低く鳴きながら飛び去る。黒い影が空をかすめ、境内の静寂をほんの一...
散文

蛇の字の蛇のやうなり寒の入

筆先が紙の上を滑る。寒中見舞いの文をしたためながら、「蛇」という字を書いたとき、その形の不思議さにふと目を留める。くねり、うねる線。その筆跡は、まるで本物の蛇が静かに身をくねらせているようにも見えた。寒の入りを迎え、空気は一層冷え込み、地面...
散文

冬波や友と敵おらぬ天下人

冬の海が静かに寄せては返す。荒々しく砕ける波もあれば、穏やかに広がるさざ波もある。その果てには、空と溶け合うような水平線が広がっていた。かつて幾多の戦を経て、天下を手にした者もまた、このような海を眺めたことがあったのだろうか。友と敵が明確に...
散文

武将祀る神社の鳥居日脚伸ぶ

武将を祀る神社の鳥居が、冬の澄んだ空気の中に静かに佇んでいる。かつて戦を駆けた者の名を宿すその地は、今や静謐に包まれ、ただ風の音と遠くの鳥の声が響くだけだ。長い年月を経ても変わることのない石の鳥居、その足元に落ちる影が、いつの間にか長く伸び...
散文

屋根のある電話ボックス春近し

街角に佇む小さな電話ボックス。かつては人々の声を運び、約束を交わし、時には切なさを閉じ込めていたその空間も、今はほとんど使われることがなくなった。ただ、ガラス越しに見る景色だけが、ゆっくりと季節の移ろいを映している。屋根の下に守られたその空...
散文

初旅の古きパンツを持ち帰る

旅の終わり、荷物をまとめながら、ふと手に取った一枚のパンツ。出発の日と同じように、静かにそこにある。それは、新しい土地を歩き、見知らぬ空気をまとい、旅の時間をともに過ごした証だった。旅先で目にした景色、触れた風、交わした言葉。そのすべては記...
散文

初旅に古きパンツを持つて行く

旅支度を整えるなかで、ふと手に取った一枚のパンツ。色褪せ、少し柔らかくなった布の感触が、指先に馴染む。新しい年の最初の旅なのだから、すべてを新調してもよいはずなのに、なぜかこれだけは手放せなかった。長い間ともに過ごし、幾度となく旅にも連れ出...
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