冬の海が静かに寄せては返す。荒々しく砕ける波もあれば、穏やかに広がるさざ波もある。その果てには、空と溶け合うような水平線が広がっていた。かつて幾多の戦を経て、天下を手にした者もまた、このような海を眺めたことがあったのだろうか。
友と敵が明確に分かたれた時代を生き抜き、頂点に立ったその後、天下人の目に映る景色はどのようなものだったのか。戦場では敵と対峙し、酒宴では盟友と語らい、それらすべてを超えた先に、何が残るのか。冬の海のように冷えた静けさだけが、その胸に広がっていたのかもしれない。
波は絶え間なく形を変え、誰のものでもない大地を撫でていく。天下を統べた者も、やがてこの波のように歴史の流れへと溶け込み、名だけを残して消えていく。しかし、争いが終わったあとの海が、敵も味方もないように、天下を得た者の心にもまた、そうした無垢な時間が訪れたのだろうか。
冬の波が寄せ、すべてを等しく洗い流していく。敵も味方も、いずれは波間の泡のように消える。その広がりを見つめながら、天下人の見たかもしれない孤独と安寧を、私はそっと思った。
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