2025-03

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散文

遠くて小さき近くて大き春の雲

春の雲は、どこまでも遠くに浮かんでいる。青く薄い空の端に、ぼんやりと白いかたまりが見える。けれど目を凝らすと、その雲は手を伸ばせば届くほど近くにも思える。遠くて小さく、近くて大きい。春の雲はいつも、距離というものの頼りなさを教えてくる。形を...
散文

使って良い金を使って買う二月

二月の光はまだ硬く、財布の中身も指先も、どこか冬の名残を引きずっている。けれど、使ってもいいと決めた金がある。その金を使うときの心持ちには、不思議な解放感と、ほんの少しの後ろめたさが同居している。店先に並ぶものは、春を迎える準備に満ちている...
散文

建設の柵の新築春の暮

夕暮れの光が、工事現場の柵を斜めに照らしていた。春の空気はまだ冷たく、鉄の柵はその冷たさを抱えたまま、新しい建物を囲んでいる。ここに何が建つのか、誰が住むのか、まだ誰も知らない。けれど柵はすでに、未来の輪郭を静かに守っている。新築の壁は白く...
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散文

チューリップ入りそうで入らない

花瓶の口にチューリップを差し入れる。その茎は思いのほか長く、少し硬さを残している。押し込めば折れてしまいそうで、かといって切るには惜しい。ほんの数ミリ、入りそうで入らない。そのわずかな距離が、妙にじれったい。春の花はどれも柔らかいものだと思...
散文

犬ふぐり思い出してムカつく

犬ふぐりの小さな青い花が、道端の土にへばりつくように咲いていた。春の光に透ける花びらは、空の青さをそのまま写したようで、一見すれば穏やかな風景の一部に過ぎない。けれど、その花を見つけた瞬間、胸の奥からじわりと古い怒りが湧き上がる。あの時、誰...
散文

麗らかやステーキ三五〇グラム

春の日差しが窓から差し込み、テーブルに置かれた皿の上でステーキが湯気を立てている。焼き目の香ばしさと肉の脂が混じり合い、麗らかな昼の空気にゆるやかに溶けていく。三百五十グラムという数字は、まるでこの幸福に必要な重みそのもののようだった。ナイ...
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人生の中心にいる蝶々かな

人生のどこか決まった場所に、蝶がひらりと舞っている。誰のものでもない空を滑るように、あの羽ばたきは、いつからここにいたのだろう。生まれた時からかもしれないし、あるいは気づかぬうちに入り込んだものかもしれない。けれど、気づけばその蝶は、人生の...
散文

風車掴まれ持ち上がり落ちる

風が吹くたび、風車は忙しなく回る。青い空を背に、赤や黄色の羽根がきらきらと光を弾いていた。子どもの小さな手が、その回転をどうにか掴もうとする。指先が風車に触れた瞬間、風は思いがけず強くなり、風車ごと子どもの腕を引き上げる。一瞬、浮き上がるよ...
散文

春昼のチョコ無き家にいる家族

春昼の光はやわらかく、カーテン越しに部屋の隅々まで届いている。窓の外では風もなく、花の匂いさえ部屋には届かない。ただ静かな昼の光だけが、そこにいる家族を淡く包んでいた。テーブルには何もなく、チョコレートひとつ見当たらない。贈るでもなく、欲し...
散文

桜鯛強い絆の作り方

桜鯛の鱗は、春の光を集めて淡く輝いている。水揚げされたばかりのその身体には、海の匂いがまだ濃く残り、硬い背には潮風の記憶が宿っている。祝いの席に供されるその姿は、ただ美しいだけでなく、人と人を結ぶ象徴でもあった。強い絆は、華やかな宴だけで生...
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