犬ふぐりの小さな青い花が、道端の土にへばりつくように咲いていた。春の光に透ける花びらは、空の青さをそのまま写したようで、一見すれば穏やかな風景の一部に過ぎない。けれど、その花を見つけた瞬間、胸の奥からじわりと古い怒りが湧き上がる。
あの時、誰かの何気ない言葉に刺された痛み。柔らかいはずの春の日に、投げられた一言が、どうしようもなく自分を小さくしたこと。犬ふぐりを見て思い出すのは、そんな些細でどうでもいいはずの出来事なのに、今もまだ、胸の奥にざらついた欠片を残している。
青い花は何も悪くない。ただそこに咲き、風に揺れているだけ。なのにその青が、記憶の底に沈んでいた感情を掘り起こす。春の光も暖かい風も、そんな記憶を慰めることはできず、ただ静かにその怒りが自分の中で膨らんでいく。
けれど、ムカつきながらも目を離せない。その花の小ささ、青の透明さ、そのどれもが憎らしく愛おしい。春はいつも、どうしようもない思い出を連れ戻す。犬ふぐりは今年も変わらず咲き、私はまた一度、忘れたはずの自分に向き合わされる。
コメント