秋分の中華弁当持ち帰る

散文
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秋分の日、空は澄んでいて、陽が傾くのも早くなってきた。街角の中華料理店から弁当を手に、家路を急ぐ。秋の風は心地よく、弁当の温かさがほんのりと手のひらに伝わる。包み紙の中に広がる中華の香ばしい匂いが、季節の穏やかな空気に混じり、どこか懐かしい感覚を呼び起こす。秋分の夕暮れは、夏と冬の間に挟まれた一瞬の静けさを象徴しているようだ。

中華弁当は、甘辛いソースが絡んだ肉や、香り豊かな野菜炒めが詰まっている。特別な日ではないけれど、秋分のこの日、少しばかりの特別感が漂う。季節の変わり目という微妙なバランスが、中華料理の濃厚さと絶妙に調和しているように感じられる。夏の熱気が完全に去る前の名残を感じつつ、冬の冷たさの訪れを静かに待っている、その狭間にあるようなひととき。

風が少し強くなる中、弁当をしっかりと抱えながら、足元の落ち葉が風に舞う様子を眺める。道端の木々も色づき始め、秋の深まりを告げている。日が沈むにつれ、空の色は濃紺から橙色に変わり、温かい弁当の存在がさらに嬉しく思える。冷たい空気と温かい食べ物の対比が、今という瞬間を特別なものにしているのだ。

家に着く頃には、空はすっかり夕闇に包まれている。秋分の短い日照の中、持ち帰った中華弁当を前にして、季節の移ろいを感じつつ、穏やかな時間が流れていく。季節の節目にふと立ち止まり、秋の静けさと温かい食べ物の安らぎに心が満たされる。

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