春の庭に、白い衣がふわりと揺れた。花嫁の裾を、まだ冷たい風がそっと掬い上げる。傍らには新しい夫が立ち、ぎこちなくも優しい手つきでその裾を整える。並んだ二人の足元に、梅の花びらがひとひら舞い落ちた。
カメラマンは、少し離れた場所からファインダーを覗き込む。レンズ越しに見える二人の姿は、まだ硬く、どこか自分たちの立ち位置を探っているように見えた。それでも、梅の枝が風に揺れるたび、花嫁の微笑みも少しずつほどけていく。
梅の木は、春と冬の境を知っている。冷たい空を見上げながら、最初に咲く花。満開にはまだ早いが、枝先のいくつかはほのかに色づき、光を集めていた。その下で、花嫁と夫がカメラに収まろうと身を寄せる。その姿が、一枚の写真におさまるよりも早く、梅の香りが二人を包んだ。
レンズの奥、シャッターの音だけが春の空気に響く。花嫁と夫と梅とカメラマン。四つの存在がひとつの風景になる瞬間、花びらがもう一枚、そっと地面に落ちる。花嫁はそれに気づき、夫はそれを見逃し、カメラマンはただ静かに切り取った。写真には写らないものまで、春は確かにそこにあった。
コメント