冬の朝、薄明かりの中で静けさが漂う。囲炉裏の火は、もう少しで消えそうなほどに弱まり、その傍らで猫が丸くなっている。まるで何もかもを忘れたかのように、穏やかな表情で。ただその温もりを感じ、今この瞬間に身を委ねている。猫の背中が軽く震え、その静かな息遣いが、まるで時が止まったかのような錯覚を生む。
昨日のことを思い出す暇も、明日のことを考える余裕もない。かまどのそばで猫が過ごすその瞬間に、すべてが凝縮されているようだ。過去も未来も、ただその温もりの中に消え去り、今という時間が唯一の現実となる。何も考えず、ただそこにいること、それが猫にとっての幸せなのだろう。その無心さが、私たちに静かな安らぎをもたらしている。
人間であれば、日々の重みや未来の不安に押し潰されそうになることもあるだろう。しかし、猫はただその時を生き、何も持たずに、何も求めずに、ただその場にあるだけで十分だと教えてくれる。過ぎ去った昨日、訪れないかもしれない明日、すべてが手のひらの中で消え去り、今、この一瞬に全てを賭けること。それこそが、猫が与えてくれる人生の真理なのかもしれない。
猫はただ、かまどの温もりを感じている。手のひらで包み込むような柔らかな温度、静かな火のぬくもり。それがどれだけ小さなことだとしても、彼にとってはすべてなのだ。私たちも、そんなふうに心の中で何かを温め、無駄に過ぎ去る時間を忘れ、今を大切に生きることができたなら、きっともっと楽になれるのだろう。
ただひとときの静寂。その中に込められた深い意味を感じながら、私は猫を見つめる。昨日を忘れ、明日を忘れ、今この瞬間に満たされているその姿に、静かなる幸せが広がっていくのを感じる。
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