人生のどこか決まった場所に、蝶がひらりと舞っている。誰のものでもない空を滑るように、あの羽ばたきは、いつからここにいたのだろう。生まれた時からかもしれないし、あるいは気づかぬうちに入り込んだものかもしれない。けれど、気づけばその蝶は、人生の中心にいた。
蝶は軽く、何にも縛られない。その動きには理由もなく、目的もない。ただ光を追い、風に乗り、思いがけない場所に降りる。そしてまた何事もなかったように飛び立っていく。その無軌道な揺らぎが、まるで生きることそのもののように思えた。
人は蝶を追いかける。でも、捕まえた瞬間に何かが失われるのも知っている。だから追いつくことなく、けれど見失うこともなく、蝶は常に視界の端にいる。選んできた道も、迷って立ち尽くした場所も、いつもその蝶がひとつ、舞っていた。
人生の中心にいるのは、大きな目標でも立派な肩書でもなく、ひとつの蝶かもしれない。その羽ばたきは、何かを告げるでもなく、何かを導くでもなく、ただ存在することで、生きることの輪郭をそっと教えてくれる。春の光のなか、蝶は今日もゆらりと飛んでいる。
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