二月かな刀丁寧に納む

散文
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二月の空は澄んでいて、けれどどこか芯に冷たさを残している。居間に置かれた刀を、掌でそっと撫でる。磨かれ、手入れされた金属の肌には、触れる指先さえ正されるような張り詰めた気配が宿る。冬の名残と春の兆しが交わるこの季節に、刀を納めることが、ひとつの儀式のように思えた。

鞘に収める刃の重みは、年月の記憶そのものだ。使われることもなく、ただ静かに守られてきたもの。それを再び、確かめるように丁寧に納めていく。息を整え、手元の所作をひとつひとつ確かめながら、刀と対話するような時間が流れる。

二月は何かを始めるにはまだ早く、何かを終えるには少し遅い。だからこそ、道具に手をかけるにはちょうどいい季節なのかもしれない。風の音も、庭先の梅の蕾も、すべてが静かに見守っているようだった。

鞘口に刃がすっと収まる瞬間、わずかな音が響く。それは、冬を送り出し、春を迎え入れる合図にも思えた。ひとつの刃を納めることで、ひとつの季節を終える。そんな静かな祈りのような時間が、二月にはよく似合っていた。

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