満月より透明な毒垂るるでせう

散文
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満月が静かに夜空に浮かんでいる。その光は、何か神秘的なものを帯びていて、まるで全てを見透かすように冷たく、けれども美しい。夜の静寂の中、澄んだその輝きから、何か目には見えないものが、ゆっくりと降り注いでいるような気がする。それは、言葉にしがたい透明な毒――無害に見えながらも、心の奥底にひっそりと染み込んでくる何かだ。

その毒は、甘くもなく、苦くもなく、ただ静かに、しかし確実に、心の一部を蝕んでいく。満月の光とともに落ちるそれは、気づかぬうちに人の心の中で影を生み出し、ふとした瞬間に不安や孤独を呼び起こすようだ。普段は無意識の中に潜んでいるが、月の光が強くなるほどに、その透明な毒は際立ち、心の中に広がっていく。夜が深まるにつれて、その感覚はますます濃くなる。

人は満月に魅せられ、無意識にその光に吸い寄せられる。まるでその透明な毒を求めているかのように、手を伸ばし、影を追いかける。だが、その毒が本当に危険なのか、それともただ幻想の一部なのか、誰も確かめることはできない。それは月の光と同じで、掴もうとすればするほど、指の間をすり抜けていく。夜風に吹かれて、遠くの木々が揺れる音が耳に届くたび、その毒が一層深く静かに降り注ぐのを感じる。

やがて、満月が徐々に空高く昇り、透明な毒は一瞬の幻であったかのように、再び見えなくなる。しかし、その余韻は確かに残っている。何も変わらないはずの夜が、どこか違う色を帯びて感じられるのは、その毒が心の奥に小さな跡を残していったからだろう。

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