北風や赤子泣きたい程に泣く

散文
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北風が強く吹きつけ、冬の冷気が肌を刺す。荒々しい風の音が建物の隙間を通り抜け、どこか哀れにも聞こえるその響きが街を覆う。寒さは容赦なく、息を吸えば肺にまで冷たさが染み込むようだ。そんな厳しい季節の中、赤子の泣き声が聞こえてくる。その声は、北風に負けじと、空気を震わせるほどの力強さで響き渡る。

赤子はただ泣きたいだけ泣く。その声には遠慮や戸惑いなどなく、純粋で真っ直ぐだ。理由が明確でなくても、ただこの冷たい世界に自分の存在を刻み込むように泣く。その小さな身体から発せられる大きな声は、どこか抗議のようでもあり、同時に生命の証そのもののようでもある。

周囲の大人たちは、何とかしてその泣き声を鎮めようとするだろう。温かい毛布で包み、優しい言葉をかけ、泣き止むまで抱き続ける。それでも、赤子が泣く理由は分からないこともある。ただ泣くことで、冷たい風に対抗し、生きていることを知らせているのかもしれない。その泣き声が、寒さに沈む街のどこかに響きわたること自体が、希望のように思える。

北風に負けない赤子の泣き声を聞いていると、人がどれだけの困難を越えてきたのか、ふと考えさせられる。私たちもまた、かつて赤子だった頃、ただ泣くことでこの世界を受け入れ、そして自分の存在を主張してきた。その記憶が遠く心の奥底に残っているからこそ、その泣き声がどこか懐かしく、そして力強く響いてくるのだろう。

泣きたいほどに泣く赤子の姿。それは、厳しい北風の中でさえも決して消えない生命の輝きだ。冷たい風がすべてを押し流そうとする中で、その声は静かな反抗であり、暖かい未来への希望そのもののようだ。赤子が泣き止むとき、北風もまた、少しその勢いを和らげるのではないだろうか。

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