飛行機の翼動かず冬の空

散文
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冬の空を切り裂くように、飛行機が水平に滑る。客席の窓越しに見える翼は、驚くほど静かだ。動いているのは景色だけ。凍えるような大気を通り抜けても、翼は微動だにせず、ただそこにある。その沈黙には、計り知れない力と緊張感が宿っている。

機内に響くエンジン音は低く、均一だ。窓から差し込む冬の光は青白く冷たく、翼の銀色を鈍く輝かせている。遠くに見える雲の層は厚く、下界を覆う布のようだ。その下には見えない世界が広がっているのだろうが、今この高度ではただ雲海の広がりに飲み込まれるばかりだ。空の冷たさが目に映るだけでなく、身体の奥にまで届くような感覚を覚える。

翼の不動さに反して、飛行機そのものは前へ前へと進む。これほど大きな物体が空中に留まれる不思議を感じつつ、物理の法則に支えられたその姿は、どこか冷たい科学の美しさを漂わせている。揺れもほとんどなく、ただ進むことだけが目的化したようなその機械の動きは、人間の感情を一切含まない。

冬の空は容赦がない。見上げると無限の冷たさを抱え、見下ろすと何もかもを覆い隠してしまう。それでも、この翼はその空を分け、先へ進むことを選んでいる。その無言の力強さに触れると、自分がどこか遠い場所へ向かう一部でしかないことを実感する。動かぬ翼の中に潜む動き。それが、この冬の空に浮かぶ飛行機の物語だ。

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