2025-03

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散文

四匹固まり一匹遊ぶ春の鴨

春の光が水面に散らばり、鴨たちが浮かんでいる。四羽は寄り添い、羽を膨らませながら水に身を任せていた。互いの羽根がかすかに触れ合い、沈黙のまま温もりを分け合っている。少し離れたところで、一羽だけが水を蹴り、ひとり遊んでいた。水面を滑るように進...
散文

水温む鯉池の端にぶつからぬ

春の光が水面にほどけ、池の鯉がゆっくりと泳いでいる。冬のあいだ沈んでいた体を、ようやく水の表に浮かび上がらせる。水温む頃の鯉は、驚くほど静かだ。泳ぐというより、ただ水とともに流れているように見える。池の端へ向かうかと思えば、ふわりと身を返し...
散文

水落ちる傍に椿の落ちてをり

水の音が、途切れることなく耳を打つ。石の間から流れ落ちる細い水筋は、光をかすかにまといながら、冷えた土へと染み込んでいく。ふと、その傍らに目をやると、赤い椿がひとつ、ころりと落ちていた。落ちたばかりの花は、まだ傷ひとつなく、むしろ生きている...
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散文

花嫁と夫と梅とカメラマン

春の庭に、白い衣がふわりと揺れた。花嫁の裾を、まだ冷たい風がそっと掬い上げる。傍らには新しい夫が立ち、ぎこちなくも優しい手つきでその裾を整える。並んだ二人の足元に、梅の花びらがひとひら舞い落ちた。カメラマンは、少し離れた場所からファインダー...
散文

直立の犬目を細め長閑なり

春の光が、やわらかく地面を撫でていた。陽だまりの中、犬が一匹、直立したまま微動だにせず、遠くを見つめている。風もなく、音もない午後の庭に、その姿はまるで置き石のように静かだった。目を細めるその表情には、眠気とも、退屈ともつかぬ穏やかさが漂う...
散文

見開きし虎の眼の二月向く

机の上に広げられた画集のページに、虎がいた。筆の勢いに乗せられた毛並みは、紙の上にもかかわらず、風を孕んでいるようだった。見開きいっぱいに据えられたその眼は、真っ直ぐにこちらを射抜いていた。息を飲むような緊張感のなかで、ふと気づく。虎が見て...
散文

二月かな刀丁寧に納む

二月の空は澄んでいて、けれどどこか芯に冷たさを残している。居間に置かれた刀を、掌でそっと撫でる。磨かれ、手入れされた金属の肌には、触れる指先さえ正されるような張り詰めた気配が宿る。冬の名残と春の兆しが交わるこの季節に、刀を納めることが、ひと...
散文

足早に特別展の雛祭

美術館の特別展に設えられた雛飾りは、古びた硝子の向こうに静かに並んでいた。ひとつひとつに名を持つ人形たちが、幾度もの春を超え、今この場所に収められている。緋毛氈の赤は少しくすみ、金屏風には光を吸った古い空気が染みついている。それでも、ひな人...
散文

美術館のスタンプラリー水温む

春の入口に立つ美術館は、冷たい空気と柔らかな光の狭間にあった。企画展の片隅には、子ども向けのスタンプラリーが設けられていて、小さな台紙を手にした親子が、展示室を巡る姿が目に入る。ふざけ合う声が響くわけでもなく、ただ黙々と、しかしどこか嬉しげ...
散文

相槌打つ役割もあり雛祭

雛祭りの席では、誰もがそれぞれの役割を持っている。華やかな雛壇を前に、子どもたちの笑顔が咲き、祝いの言葉が交わされる。その輪のなかで、ふと気づけば、自分はただ相槌を打つばかりだった。語る者がいて、聞く者がいて、その間に柔らかな言葉を添える者...
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