四匹固まり一匹遊ぶ春の鴨

散文
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春の光が水面に散らばり、鴨たちが浮かんでいる。四羽は寄り添い、羽を膨らませながら水に身を任せていた。互いの羽根がかすかに触れ合い、沈黙のまま温もりを分け合っている。

少し離れたところで、一羽だけが水を蹴り、ひとり遊んでいた。水面を滑るように進んでは、くるりと向きを変える。その軽やかさは、春の風をまとった生き物そのものだった。固まる四羽に戻る気配はない。群れに守られるよりも、今は水と遊ぶことの方が大切なのだろう。

けれど遊ぶその姿にも、どこか柔らかな孤独があった。水に映る自分の影を追いかけているようにも見える。春の日差しに揺れる水は、鴨の影をきれぎれにしながら、それでも見失わせることはない。

やがて水に疲れたその一羽は、ふと羽を休め、再び四羽の側へ戻ってゆくのだろう。けれど今はまだ、その距離を楽しむように、ひとり遊ぶ。春は、寄り添うものと離れるもの、そのどちらにもやさしく光を落としていた。

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