散文 剪定せし通行人を気にしつつ 剪定ばさみの音が、春の空気に短く響く。枯れた枝を落としながら、ふと背後に通り過ぎる足音に耳を澄ませる。剪定する手は止まらないが、そのわずかな音の変化が、思いのほか心をざわつかせる。季節の境目にある庭は、まだ寒さを引きずり、空気のなかに乾いた... 2025.03.08 散文
散文 石垣に石の大きさ春浅し 石垣の前に立つと、冬の冷たさがまだ石の奥に残っているのがわかる。掌をそっとあてれば、硬さよりも、そこに閉じ込められた時間の重みが伝わってくる。無数の石が積み重ねられ、ひとつとして同じ形のものはない。それぞれが選ばれ、嵌め込まれ、互いの隙間に... 2025.03.08 散文
散文 遠慮して流るる音に春の川 川面を撫でる風は、どこかためらいがちに吹いていた。冬の名残を胸に抱えたまま、春の気配に戸惑うようなその息吹は、水のさざめきにも淡い翳りを落とす。岸辺に立てば、足元の土はまだ冷たく、けれど遠くの草むらには、確かに芽吹きの光が溶け始めている。静... 2025.03.08 散文