十万円金貨の重み竈馬

散文
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手のひらに収まる十万円金貨。その小さな円盤には独特の重みがあり、冷たく、どこか時代を超えてきたような鈍い輝きを放っている。指の間から零れ落ちないよう、注意深く握りしめるたびに、その金の重さが肌にしみるように感じられる。磨き上げられた表面には硬質な輝きがありながらも、ふと目を離せばその存在も消えてしまいそうな不安が宿っている。

その足元を、何かが小さく跳ねる音がする。竈馬——煤けた影のようなその小さな虫が、ひそやかに隅の方で飛び跳ねている。古い家の隅でよく見かけるその姿は、どこか風化した記憶を呼び覚ますような、ひそやかな懐かしさを漂わせている。十万円金貨を手にしながら、竈馬の気配に気づくと、その対照的な軽やかさと儚さが何とも言えず愛おしく思えてくる。

金貨の重みはずしりと手の中に残るが、竈馬の軽やかさは、まるで秋の微かな息吹のように、ふわりと風に舞うような存在感だ。どれほどの価値を持つ金貨も、この小さな虫の生きる一瞬にはかなわないかもしれない。古い床板の上で不意に跳ねる竈馬の影が、金の重みと対話するように秋の光に揺らいでいる。

ふと金貨を置き、竈馬の跳ねる音に耳を澄ませると、その微かなリズムは秋の終わりと共にゆっくりと遠ざかっていく。金貨の重さがどれだけ価値を示そうとも、ひそやかな虫の存在が持つ儚い美しさにはかなわないのだと、秋の夕暮れにしみじみと感じる。

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