秋の陽射しが柔らかく庭先を包み、古びた縁側に座る母が、少し遠くで遊ぶ孫娘の姿を静かに見つめている。孫娘は小さなぬいぐるみを抱え、その手を引いて、まるで母親になったかのように真剣な顔で遊んでいる。ぬいぐるみをそっとあやしたり、何かを囁くように口を動かしたりと、まなざしには無邪気な母の気持ちがこもっている。時折、風に揺れる草むらの奥から、小さな蜂が飛び出しては、秋の名残を惜しむように空を漂っていく。
母はそんな姿を微笑みながら眺め、ふと懐かしさが胸に湧き上がる。自分もかつては幼い娘に、こうしてぬいぐるみや人形をあてがい、遊ぶ姿を見守ったことが思い出される。時間は過ぎ、娘は今や母となり、そのまた子どもが母親ごっこに夢中になっている。それぞれの世代が育まれてきた小さな手のぬくもり、その記憶がこの庭の秋の空気に溶け込むようだ。
秋の蜂が一度近くを掠めて、どこかへと飛び去る。蜂もまた、この温かなひとときを守る小さな訪問者のように、母と孫娘の穏やかな時間をつかの間見守っているかのようだ。季節が巡り、日が傾くたびに過ぎ去るものがあり、そして受け継がれていくものもある。母は孫娘の「母」ぶりを静かに眺めながら、そんな移りゆく日々の流れに、言葉にはならない感謝と、ささやかな寂しさを感じている。
そろそろ夕方が近づく。風が冷たくなってくると、母は軽く立ち上がり、孫娘に声をかける。孫娘が「母役」を終え、無邪気に駆け寄ってくる姿に、縁側の上には微笑みと、静かな秋の影がふたりを包み込む。
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