冬の訪れがまだ浅く、空気にほんのりと冷たさが混じり始めた頃。街の通りを歩いていると、ふと目の端に可愛らしいものが映る。小さな手を振りながら歩く子ども、ふわふわの毛並みが揺れる犬、あるいはショーウィンドウに飾られた季節限定の小さな飾り。思わず足を止めそうになるが、その瞬間はすぐに過ぎ去り、こちらの記憶にほんの一滴の甘さだけを残していく。
可愛いものとすれ違うとき、心は自然と軽くなる。可愛いとは何か。形や色、しぐさの微妙なバランスが生み出す感覚だろうか。それとも、見る側の心が柔らかいときだけ感じられる小さな奇跡なのか。その答えははっきりしないが、確かなことは、その一瞬が冬の冷たさを和らげ、世界に目を向けさせるということだ。
立ち止まらないまま歩き続けるうちに、見逃した可愛らしいものが他にもあったかもしれないと思う。寒さに肩をすぼめていると、可愛いものに気づけないのかもしれない。見慣れた街路の中に、まだ見ぬ可愛らしさが潜んでいると思うと、少し背筋を伸ばしたくなる。その想像だけでも、どこか胸が温かくなる。
冬の浅い季節は、そうした小さな可愛らしさを気づかせてくれる時間だ。まだ本格的な冬の厳しさには遠く、季節の境目が柔らかく揺らいでいるからこそ、可愛いものの輝きがより一層引き立つのだろう。何気ないすれ違いの中に、心が触れる瞬間がある。その瞬間が冬の日々をほんの少し明るく彩ってくれるのだ。
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