夢の中に現れた扉は、確かにそこにあった。けれど、その扉には取手がなかった。木目の美しい滑らかな表面、僅かに光を反射する静かな佇まい。しかし、それを押し開く術はどこにも見当たらなかった。私はただ、扉の前に立ち尽くし、その先に広がるはずの世界を想像することしかできない。
初夢とは、新しい年の予感を映し出す鏡のようなものだと言う。ならば、この扉は何を意味するのだろう。行きたい場所があるのに、踏み出せない迷いか。あるいは、まだ開かれるべき時ではない未来への示唆か。指先をそっと扉に触れてみると、夢の中にあるはずのそれは、まるで現実のもののようにひんやりとしていた。
ふと振り返ると、来た道すらもおぼろげになり、私がどこから来たのかさえ定かでなくなる。ただ、目の前には扉だけがあり、そこに取手がないという確かな事実だけが残る。開けることを許されていないのか、それとも、自ら開く方法を探さねばならないのか。夢の中でさえ、その答えは見つからなかった。
やがて目が覚め、静かな朝の光が差し込んでいた。夢の中の扉は、もうどこにもない。しかし、心のどこかに、その手触りだけが確かに残っている。取手のない扉は、きっと今もなお、私の内側のどこかに立ち続けているのだろう。いつか、その向こうへ行ける日が来ることを願いながら、私は新しい年の始まりに深く息をついた。
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