散文

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母役を見守る母や秋の蜂

秋の陽射しが柔らかく庭先を包み、古びた縁側に座る母が、少し遠くで遊ぶ孫娘の姿を静かに見つめている。孫娘は小さなぬいぐるみを抱え、その手を引いて、まるで母親になったかのように真剣な顔で遊んでいる。ぬいぐるみをそっとあやしたり、何かを囁くように...
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手を繋ぐ子のやや遅し秋の暮

夕闇がそっと降りてくる秋の帰り道、小さな手が親の手にしっかりと絡む。道端の草花が淡い影を伸ばし、空は茜から次第に藍色へと移りゆく。その空気の中で、手を繋ぐ親子の歩みはどこかゆっくりと、時を惜しむかのように遅れがちだ。子どもの足取りは少しばか...
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摘みやすき粒より食ふて黒葡萄

夜露に冷たく照らされた黒葡萄が、一房、手の中に収まる。ひと粒、ひと粒と指先に感触を確かめるように摘み取ると、しっとりとした果皮がやさしく弾け、わずかな甘みと濃密な香りが口いっぱいに広がる。秋の果実はどこか、ほのかな苦みを帯びていて、その奥底...
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十月のそろばん塾の帰り道

夕暮れが深まる十月、そろばん塾を終えて家路をたどる子どもたちの足音が小さな街道に響く。冷え込みが肌に触れるたびに、夏の熱が遠ざかりつつあることを思い知らされる。薄い月が空に浮かび、街灯の光がぼんやりと影を織りなす夜の風景。子どもたちの笑い声...
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賑わつてゐる秋分の日の直売所

秋分の日、直売所には人々の活気が溢れている。秋の澄んだ空気の中で、色とりどりの野菜や果物が整然と並び、その一つ一つが秋の恵みを象徴しているかのようだ。かぼちゃやさつまいも、真っ赤なリンゴが光を受けて艶やかに輝いている。その風景は、夏の終わり...
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烏瓜赤子を乗せる体重計

烏瓜の鮮やかな赤が秋の空気の中で目に飛び込む。それは木々の隙間からぽつりぽつりと垂れ下がり、その鮮烈な色彩が季節の移ろいを告げているようだ。秋の柔らかな日差しの中、ふと目にしたその烏瓜の赤が、何故か体重計に乗る赤子の光景を呼び起こす。丸みを...
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総裁になりたしなりたし檸檬の香

檸檬の香りがふっと鼻をかすめると、総裁という大きな肩書きを望む気持ちが胸の奥から静かに湧き上がってくる。その肩書きは、まるで手の届かない光のように輝き、魅力的でありながらもどこかはかない。檸檬の香りは、その願いの甘酸っぱさを象徴しているかの...
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稲の花帰る時間に帰れない

田んぼ一面に広がる稲の花が、柔らかな風に揺れている。秋の空は高く澄んで、穏やかな光がその花々を優しく照らしている。その景色を目にしていると、帰るべき時間が近づいていることを思い出すが、足は自然と止まってしまう。稲の花が咲くこの時期に感じる静...
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秋分の中華弁当持ち帰る

秋分の日、空は澄んでいて、陽が傾くのも早くなってきた。街角の中華料理店から弁当を手に、家路を急ぐ。秋の風は心地よく、弁当の温かさがほんのりと手のひらに伝わる。包み紙の中に広がる中華の香ばしい匂いが、季節の穏やかな空気に混じり、どこか懐かしい...
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役所まで段差無き道秋高し

役所まで続く道は、平らで段差一つない。秋の高い空が、澄み切った青さを広げている。遠くまで見渡せるその道は、まるで空に吸い込まれていくかのように真っ直ぐで、歩いていると足元の確かさが心地よい。段差のないこの道は、誰もが無理なく進めるようにと丁...
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