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導入
「最新システム入れた途端に出荷が止まった!?」――最近、プリンで有名な江崎グリコが基幹システム刷新による大トラブルを起こし、主力商品のプッチンプリンやカフェオーレなどチルド食品の出荷が約1カ月も止まる異例の事態になりました。業務効率化のために約340億円かけて導入したはずの新しいERP(基幹システム)が、皮肉にも業務を止めてしまったのです。ニュースを聞いて「うわぁ、やっちゃったな…」と感じた方も多いでしょう。実際、「DX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げてIT導入したら現場が大混乱」という話は枚挙にいとまがありません。ある調査では「世界中で進められているDXの95%は成功に至っていない」とも報告されており、大なり小なりDX失敗あるあるは各所で起きているのが現状です。
とはいえ、外から見れば「なぜそんなことに?」と思う失敗も、渦中の担当者にしてみれば決して他人事ではないでしょう。経営トップから「ウチもDXやるぞ!」と号令がかかり、大きな予算とプロジェクトが動き出す。担当者は奔走するものの、気づけば「DXすること」自体が目標になり、現場は振り回され…なんて光景、身に覚えはありませんか?本記事では、そんな「DXが目的化」してしまった企業の悲喜こもごもを少し皮肉を交えつつ解説します。「外から見れば分かるけど、中にいると分からないよね」と苦笑いしつつ、なぜそうなったのかを構造的にひも解き、もしやり直せるならどうするかまで考えてみましょう。失敗を単に断罪するのでなく、明日からの前向きな学びに変えるヒントを探っていきます。
よくある失敗パターンの整理
DX推進の失敗には実に様々なパターンがありますが、ここでは特に典型的なものをいくつか取り上げます。製造業の現場を舞台に、「何が起きていたのか」を当事者目線で描写しながら、その裏で共通する落とし穴を探ってみましょう。
パターン1:大規模リプレースで現場大混乱
【現場で起きたこと】
老朽化した基幹システムを最新の統合システムに一気に切り替えたところ、工場と物流現場は大混乱に陥りました。新システムの不具合で受注処理や在庫データ連携が止まり、製品を出荷したくてもできない状態に…。あちこちの倉庫に商品が滞留し、ついには出荷停止にまで追い込まれます。現場担当者は「手作業で何とか出荷できないのか!?」と奮闘しますが、在庫〜販売〜会計まで全て一括管理する設計のため人力では追いつかず万事休す。取引先からの問い合わせ対応に追われ、社員は疲弊しきってしまいました。
【どこがまずかったのか】
このパターンでは、大規模一斉切替と現場との乖離が致命傷でした。新システム導入ありきで一気呵成に進めた結果、リスク検証や段階移行の余地がなく、問題発生時に全社的な業務停止を招いてしまったのです。現場の業務フローが十分に反映されておらず「机上のシステム」になっていた点も混乱に拍車をかけました。江崎グリコの事例では開発に5年・費用340億円超の大型プロジェクトでしたが、蓋を開ければ計画遅延やコスト膨張の末にリリース強行→不具合噴出という最悪の結果に至ったといいます。本来であれば一部工場や限定業務でスモールスタートし、問題を潰しながら順次拡大するのがセオリーでしたが、それを怠ったツケが回ってきた形です。
パターン2:最新テクノロジー導入が目的化
【現場で起きたこと】
コロナ禍で売上が落ち込んだある旅行会社では、「最先端のDXで新事業を!」とばかりにバーチャル観光サービスの開発に飛び付きました。自宅にいながらVRで世界旅行――一見ワクワクするコンセプトに社内も沸き立ち、メタバース空間の日本再現プロジェクトが始動。ところが発表当初こそ話題になったものの、開発映像を見たユーザーから「初代プレステ並みのグラフィック」とツッコミ殺到。社内では手応えがあると言っていたものの、その後肝心の続報はなし。結局サービスは軌道に乗らずひっそり終了し、プロジェクトは“なかったこと”に…。現場社員は「あの騒ぎは何だったんだ」と苦笑いするばかりでした。
【どこがまずかったのか】
このケースはまさに「目的と手段の混同」の典型です。DXという言葉やメタバース技術自体が目的化してしまい、肝心の顧客ニーズやビジネスモデルの詰めが甘かったのです。結果としてユーザーに響く価値を提供できず、事業として成立しませんでした。「コロナでリアル旅行ができない→じゃあデジタルで代替だ!」という発想自体は悪くありません。しかし技術ありきで進めてしまい、市場の声を十分に検証しなかったことが失敗の原因です。「最新技術を使えばスゴいものができるはず」という期待だけが先行し、本来は地道に市場調査すべきところをすっ飛ばしてしまったと言えるでしょう。DXはあくまで課題解決の手段であり、まず顧客視点で解決すべき課題を深掘りしてから技術を選ぶべきだったのです。
パターン3:現場不在のトップダウンDX
【現場で起きたこと】
ある老舗メーカーでは、経営陣が「ウチも負けてられない、全社DXだ!」と旗を振り、大手ITベンダー提案の最新クラウドシステムを導入しました。ところが稼働してみると、工場現場から不満が噴出。「現場の手順に合わず使いにくい」「入力項目が増えて作業が遅れる」とベテラン社員たちは反発し、誰もそのシステムを使おうとしません。結局、数千万円かけたシステムは放置され、みんなエクセル管理に逆戻り…。担当者は頭を抱え、「今までのやり方で十分って声に勝てなかった」と嘆きます。
【どこがまずかったのか】
現場の声を取り入れないトップダウン推進が招いた失敗例です。経営層がDXに本腰を入れるのは良いのですが、現場理解が乏しいまま「システムを入れればなんとかなるだろう」と進めてしまうと、現場とのギャップでプロジェクトは空中分解しがちです。実際、このメーカーでも「自分たちで作ったExcelの方が使いやすい」という現場の本音を事前に拾えていませんでした。結果、せっかく導入した高額クラウドサービスが宝の持ち腐れになったのです。現場を無視したDXはまさに「机上の空論」。現場社員の知見や暗黙知を取り入れ、業務プロセス自体を見直す努力を怠ると、新システムも「誰にも使われない化け物システム」になりかねません。
パターン4:巨額投資の泥沼プロジェクト
【現場で起きたこと】
製造業A社では、社運をかけて全社デジタル化プロジェクトに乗り出しました。数十億円規模の予算で有名ベンダーのパッケージを導入し、業務を標準化・データ活用する狙いです。しかし導入が進むにつれ、現場から「この機能じゃウチのやり方に合わない」という声が続出。ベンダーは追加カスタマイズで対応しましたが、それに伴い開発負荷とコストが急増。結局、開始から2年で開発は凍結され、新システムは全て“お蔵入り”に…。現場には旧システムと中途半端な新システムのしこりだけが残り、プロジェクトチームは解散。莫大な投資は回収不能となりました。現場社員は「結局また昔のやり方に戻った」と苦い笑いを浮かべています。
【どこがまずかったのか】
このケースではシステム先行で業務プロセスとの乖離が生じたことが敗因でした。導入したパッケージが現場ニーズに合わず、後から無理なカスタマイズを重ねた結果、費用ばかりかさみプロジェクト破綻に至ったのです。典型的な「形だけDX」の末路と言えるでしょう。ベンダー任せで進め、自社の業務を本質から見直すプロセスを怠ったことも問題でした。グリコの事例でも、主導ベンダーから「SAPを入れれば業務がこんなに改善します」という美麗な提案を受けて飛びついた結果、「お決まりのパターン」で泥沼にハマったと業界関係者は指摘しています。社内に大規模開発のノウハウや要件整理力がなく外部に頼り切りだった点も一因で、こうしたケースは日本企業でも珍しくありません。要は、自社の業務と課題を自分たちで深く理解しないまま巨額投資に走るなという教訓です。
なぜ失敗に気づけなかったのか
以上のような失敗パターンを俯瞰すると、共通して「なぜ途中で軌道修正できなかったのか?」という疑問が浮かびます。外野から見れば「明らかに無理筋じゃない?」と思える計画でも、当事者たちはなぜ突き進んでしまうのでしょうか。その背景には、組織構造や評価制度、心理的要因が複雑に絡み合っています。ここでは、内側からでは見えにくい主な要因を整理します。
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暴走を止められない組織文化: 上からの方針に異を唱えづらい社風では、プロジェクトが失敗方向に進んでいても誰も「No」と言えません。疑問や懸念を口にすると煙たがられる雰囲気では、不都合な真実は隠れたままです。指摘されているように、質問や提案が歓迎されない職場では「プロジェクトが失敗に向かっていても誰も止められない」状態に陥ります。結果として、計画の綻びが見えていても軌道修正されないまま突き進んでしまうのです。
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「とりあえずDX」症候群: 周囲の企業が次々とDX宣言する中、「うちも遅れを取るな!」と焦る心理も見逃せません。他社事例に影響されて目的が曖昧なまま着手すると、「DXすること自体」が目的化しがちです。現場への説明が不足する背景には「何のためのDXか明確でない」ことが多く、流行に乗り遅れまいととにかく導入してしまうパターンがありがちだと指摘されています。たとえば「とにかくAIを入れねば」「RPA導入で業務自動化しないとまずい」といった焦りから手段が目的化するケースです。この心理的プレッシャー下では冷静な計画策定が疎かになり、プロジェクトの本質的なゴール設定がないまま迷走してしまいます。
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評価制度と責任の曖昧さ: DXプロジェクトの成否を誰が評価・責任負担するのか不明確な場合も、失敗に気づきにくくなります。往々にしてトップは号令をかけるだけで現場任せ、失敗しても明確な責任追及がない――となると、担当者は「止める勇気」より「言われた通り進める安全策」を選びがちです。また、日本企業では途中撤退より完遂を美徳とする風潮も強く、たとえ成果が怪しくても「とりあえずやり切る」ことが評価されがちです。そのため損切りが遅れ、泥沼化に陥ります(いわゆるサンクコストバイアスの組織版ですね)。「ここまで投資したんだから後に引けない」という心理も働き、周囲も止められないまま突き進むケースは後を絶ちません。
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デジタル知見の不足: 根本原因として、経営陣自身がデジタルや現場業務を深く理解していないケースも多いです。「DXの意味を本質的に分かっていない」まま見切り発車すると、頓挫するのは当然です。また社内にプロジェクトを正しくリードできるIT人材がいないため外部コンサル任せになり、提案されたプランを鵜呑みにしてしまう傾向もあります。グリコの例でも、食品メーカー特有の業務を熟知した人材がおらずベンダー任せだった可能性が指摘されています。要するに、内側にブレーキ役もハンドリング役も不在だったために、危ない橋を渡っていることに最後まで気付けなかったのです。
以上のように、組織の風土・心理的プレッシャー・知識不足が重なると、DXプロジェクトは暴走しやすくなります。中にいる人ほど「自分たちは大丈夫」と正常性バイアスに陥りやすく、外から見れば危うい状況でも楽観視してしまうのです。「DXやらねば」というプレッシャーと、「失敗を認めたくない」空気の中では、なかなか軌道修正の声は上げられません。そのギャップこそが、外野から見た「まさかの末路」を生んでしまう大きな理由なのです。
もしやり直せるなら
では、もしタイムマシンで失敗前に戻れるなら、企業はどんなアプローチを取るべきだったのでしょうか?理想論ばかり語っても現場は動きませんので、ここでは現実的で効果の高い改善ポイントを挙げます。失敗を踏まえ、「DXが目的化しないため」に押さえておきたいポイントです。
1. ビジョンと目的を最初に明確化する:
DXは手段でありゴールではありません。まず「何のためにDXをするのか?」を経営トップ自ら言語化しましょう。「生産ラインの見える化」が目的では不十分で、その先に何を実現したいかまで具体化する必要があります。例えば「見える化によって在庫最適化し、納期遵守率を上げる」といった具合です。このように効果がイメージできる具体的ゴールが定まっていれば、プロジェクト全体の方向性がブレにくくなります。逆にゴール不在のまま「とりあえずDX」では途中で迷走必至です。目的が明確であれば導入後の評価もしやすく、途中での軌道修正判断もつけやすくなります。
2. 現場を巻き込んだ課題先行のアプローチ:
トップダウンだけで突き進まず、現場発の課題発見から始めることが成功への近道です。先の失敗例でも、現場ヒアリングを経て小さな問題解決から着手した企業は見事に立て直しています。例えば愛知県の中小メーカーでは、最初のDX挑戦で高額システムを入れて失敗した反省から、現場作業員への徹底ヒアリングを実施。「一番時間が奪われている手書き作業報告」に狙いを定め、たった20万円でスマホ入力アプリを開発したところ、1日3時間の事務作業削減(年間約450万円のコスト減)を達成したのです。このように課題ドリブンで小さく始めることで、現場にも受け入れられやすく効果も見えやすい取り組みとなります。現場の意見を反映すれば「やらされ感」も薄れ、社員も自発的にDXを推進する雰囲気が生まれます。
3. スモールスタート&段階的拡大:
いきなり全社一斉導入せず、実証実験→部分展開→全社展開と段階を踏むことが肝要です。小規模プロジェクトなら万一失敗してもリスクは限定的ですし、成功すれば社内の自信とノウハウが蓄積します。たとえば静岡の製造業では1000万円超を投じたシステムが使われず失敗しましたが、別の企業ではまず月額制のクラウドツールで顧客管理だけ導入し効果を実感→機能追加…と徐々に範囲を広げ、3年かけて全社DXに成功しています。このように小さな成功体験を積み重ねることが、現場の納得感と協力を得るコツです。現場から反発を受けた飲食チェーンでも、まず1店舗でテスト導入しフィードバックを反映する方法に切り替えたところ、最終的に客単価8%アップなど成果に結びつけています。スモールスタートはDX成功の王道といえるでしょう。
4. 経営陣のコミットメントと現場支援:
DX成功にはトップの本気度が不可欠ですが、丸投げではいけません。経営トップ自らが基本を学び、現場と対話し、進捗をチェックするくらいのコミットが必要です。実際、ある中小メーカーでは社長がDX失敗後に一念発起して毎週の進捗会議に参加、現場の声を吸い上げるようにしたところ社内意識が一変したといいます。トップが現場とビジョンを共有し「一緒にやる」姿勢を示すことで、組織全体がDXに主体的に取り組める土壌ができます。また、人材面では社内のデジタル人材育成も並行しましょう。外部パートナーに頼る場合も丸投げせず、社内にノウハウを蓄積する意識が大事です。経営層~現場まで横断的なチームを組み、定期的に情報共有や課題潰しを行う体制も効果的です。要は、組織一丸となって学習し巻き取っていける仕掛けを作ることが、途中での迷走を防ぐカギとなります。
5. 健全な失敗文化とリスク管理:
最後に、「失敗を早めに認め対策できる文化」を育てることも大切です。プロジェクト開始前に最悪の失敗シナリオをあえて想定し対策を議論する「プリモーテム分析」などの手法も有効でしょう。実際に走り出してからも、問題が起きたら隠さず共有し速やかに手を打つ――そんな心理的安全性の高いチーム作りが、結果的に大失敗を防ぎます。日本企業では往々にして「失敗=悪」と捉えがちですが、小さな失敗は次の成功への貴重なステップです。むしろ初期段階でたくさん失敗し、軌道修正していくほうがトータルでは成功確率が上がるものです。計画段階からリスク要因を洗い出し、定期チェックポイントで撤退判断も含めたレビューを行うようにすれば、「気づいたら取り返しがつかない…」を避けられるでしょう。要は、失敗と上手に付き合う仕組みを持つことが、DX成功への現実的な近道なのです。
まとめ
「DXが目的になってしまった企業の末路」というテーマで、ありがちな失敗パターンを見てきました。振り返ると、どのケースも結局は「手段の目的化」が根っこにあります。デジタル化それ自体に意識が向きすぎて、本来のビジネス目的や現場視点を見失ってしまうのです。外から見れば「そりゃ失敗するよね」と思えることも、内側では様々な事情やプレッシャーで判断が歪んでいたりします。だからこそ、他山の石として今回の事例や分析を活かす意義は大きいでしょう。
最後に、失敗から学べる教訓をまとめておきます。
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DXはあくまで手段であり、常に「何のために」を問い続けること。
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現場と二人三脚で進め、現実に即した解決策を積み上げること。
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小さく始めて大きく育てる。段階的アプローチでリスクを抑えること。
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トップも現場も学習者であれ。共通言語を持ち、オープンに議論すること。
失敗した企業を笑うのは簡単ですが、そこから学んで笑い飛ばせるかは次第にかかっています。DXに限らず変革には困難がつきもの。大事なのは、失敗を糧に次どう動くかです。今回見たいくつかの末路も、きっと当事者にとっては高い授業料だったはず。その経験は無駄ではありません。「転んでもただでは起きない」精神で、失敗も次のチャレンジの肥やしにしていきましょう。DXが目的化しないよう気をつけつつ、しかし怖がりすぎずに挑戦を続ける――そんな前向きなしなやかさこそが、これからの時代に求められる企業文化なのかもしれません。失敗を笑いに変えつつ、次はぜひ「うまくいった例」を語れるよう、一緒に頑張りましょう!

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