エッセイ

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妻の祖母の日記

妻が祖母の日記帳を見つけたのは、実家の押し入れを片付けている最中だったらしい。段ボールの角が少し潰れていて、畳の上に置くと、ふわっと古い紙の匂いが立ち上る。赤ちゃんが生まれる少し前で、産休育休の合間に、誰も住まなくなった家を少しずつ整理して...
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知育菓子

知育菓子を作った日のことを思い出す。娘の前に広げた小さなトレーの上には、色とりどりの粉袋と、妙に未来的なプラスチックの型。説明書は細かい字と図でびっしりで、対象年齢の数字を二度見したくなる。「これ、ほんとに子ども向けか?」と、心の中でつぶや...
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始まりは月曜日

魚の目というのは、存在感のわりに語られることの少ない痛みだ。右足の親指の、ちょうど体重がかかる場所にそれはあって、朝、床に足をついた瞬間に「今日もいるな」と無言で自己紹介してくる。靴下越しでもわかる、小さな石粒を踏み続けているような鈍痛。こ...
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競走、止まる

みんなで家を出る。玄関を出て、娘が靴音を鳴らしながらこちらを振り返る。「パパ、競争しよう」マンションの部屋からエレベーターまでは、ほんの数メートル。一直線の廊下を進む必要がある。競争と言うほどの距離でもないけれど、娘にとっては立派なレースコ...
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あ、江口のりこ

CMを見ていて、「あ、江口のりこだ」と言ったら、妻にすぐ訂正された。「それ、安藤サクラだよ」テレビの中では、白い背景に立つ女性が、きっぱりした口調で何かを勧めている。私はソファに寝転び、半分スマホを見ながらだったから、顔をちゃんと見ていなか...
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強めに起こされる

夜0時半に起きる。いや、起こされた、が正確だ。しかも、けっこう強めに。生後1ヶ月ちょっとの赤ちゃんがいる頃の夜は、夜ではない。時間の感覚が溶けていて、時計の数字だけがやけにくっきりしている。赤ちゃんは3〜4時間おきにお腹が空く。こちらがいち...
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おんぶのやり方

妻が赤ちゃんをおんぶする。その手伝いをする。そう書くと、いかにも現在進行形の育児の一場面のようだけれど、実際にはもう、少し前の話だ。下の子はもう自分で歩く。よちよち、というよりは、興味のある方向へ一直線だ。ベビーカーにはまだ乗る。スーパーの...
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宝くじ売り場にて

宝くじ売り場へ行く。年末ジャンボ宝くじの当選確認だ。結果は——300円。当たっている。売り場のガラス越しに、蛍光灯の白い光が床に反射している。番号を打つ機械の前で、係の人が無言で紙を揃える。その一連の動きが、なぜだか毎回、少しだけ儀式めいて...
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