ほけきよ

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散文

冬波や友と敵おらぬ天下人

冬の海が静かに寄せては返す。荒々しく砕ける波もあれば、穏やかに広がるさざ波もある。その果てには、空と溶け合うような水平線が広がっていた。かつて幾多の戦を経て、天下を手にした者もまた、このような海を眺めたことがあったのだろうか。友と敵が明確に...
散文

武将祀る神社の鳥居日脚伸ぶ

武将を祀る神社の鳥居が、冬の澄んだ空気の中に静かに佇んでいる。かつて戦を駆けた者の名を宿すその地は、今や静謐に包まれ、ただ風の音と遠くの鳥の声が響くだけだ。長い年月を経ても変わることのない石の鳥居、その足元に落ちる影が、いつの間にか長く伸び...
散文

屋根のある電話ボックス春近し

街角に佇む小さな電話ボックス。かつては人々の声を運び、約束を交わし、時には切なさを閉じ込めていたその空間も、今はほとんど使われることがなくなった。ただ、ガラス越しに見る景色だけが、ゆっくりと季節の移ろいを映している。屋根の下に守られたその空...
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散文

初旅の古きパンツを持ち帰る

旅の終わり、荷物をまとめながら、ふと手に取った一枚のパンツ。出発の日と同じように、静かにそこにある。それは、新しい土地を歩き、見知らぬ空気をまとい、旅の時間をともに過ごした証だった。旅先で目にした景色、触れた風、交わした言葉。そのすべては記...
散文

初旅に古きパンツを持つて行く

旅支度を整えるなかで、ふと手に取った一枚のパンツ。色褪せ、少し柔らかくなった布の感触が、指先に馴染む。新しい年の最初の旅なのだから、すべてを新調してもよいはずなのに、なぜかこれだけは手放せなかった。長い間ともに過ごし、幾度となく旅にも連れ出...
散文

正月の三本足と二本足

朝の空気が澄みわたり、新しい年の光が街を静かに照らしている。まだ人影の少ない道を歩くと、鳥たちが地面をついばみ、忙しなく動いているのが目に入る。その足跡は、三本の指を広げた形で土や雪の上に残され、まるで見えない書を記すかのようだ。やがて彼ら...
散文

それぞれに役割を持ち今朝の春

朝の光がやわらかく差し込み、静かな空気のなかに春の気配が滲む。冬の名残がそこかしこにありながら、ふとした瞬間に感じる温もりが、新しい季節の訪れを告げている。庭の木々はまだ眠るように佇み、鳥たちは控えめにさえずる。そんななかで、人もまた、それ...
散文

初景色始点終点見えぬ川

新しい年の朝、遠くまで続く川を眺める。水面には冬の陽が淡く反射し、静かに流れていく。その川の始まりはどこなのか、終わりはどこなのか、見渡しても分からない。ただ、今この瞬間も、絶え間なく水は流れ続けている。人生もまた、この川のようなものなのだ...
散文

我以外の家族見送る旅始

朝の冷たい空気の中、家族を見送る。玄関の扉が開き、次々と外へ出ていく背中を見送りながら、私はただ静かにその光景を眺めていた。足音が遠ざかるたびに、家の中の空気が少しずつ変わっていく。つい先ほどまで聞こえていた何気ない会話も、今はもうない。た...
散文

初夢の扉に取手無かりけり

夢の中に現れた扉は、確かにそこにあった。けれど、その扉には取手がなかった。木目の美しい滑らかな表面、僅かに光を反射する静かな佇まい。しかし、それを押し開く術はどこにも見当たらなかった。私はただ、扉の前に立ち尽くし、その先に広がるはずの世界を...
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