近年、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールの一つであるWinActorが製造業界のバックオフィス業務(経理、人事、総務、購買など)で広く活用されています。日本発の純国産RPAであるWinActorは、日本語環境で使いやすく現場担当者でも扱いやすいことから国内シェアNo.1を誇り、多くの製造業企業が業務効率化に導入しています。本レポートでは、製造業のバックオフィス部門におけるWinActorの具体的活用事例を紹介します。それぞれの事例ごとに、企業概要、導入前の課題、導入目的、導入プロセス、自動化した業務内容、導入後の効果、そして今後の展望について詳述します。
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キリンビジネスシステム株式会社(キリングループ)
企業概要:キリンビジネスシステム株式会社(KBS)は飲料メーカー大手キリンの情報システム子会社で、キリングループ全体のICT企画・運用を担っています。同社では2027年を見据えた長期経営構想「価値創造を加速するICT」のもと、グループ全社でバックオフィス(経理・人事・総務など間接業務)の生産性向上と業務プロセス再構築を推進しており、その一環としてRPAツールWinActorを導入しました。
導入前の課題:グループ各社・各部署で定型業務や手作業が点在し、業務効率や生産性にムダが発生していました。例えば営業部門では商品案内メールの配信作業に多大な手間がかかり、工場部門では工場ごとに異なる手順・フォーマットで事務作業を行う非効率がありました。また物流部門では基幹システムとEDIサーバの連携システム整備が順番待ちとなり、その間に手作業でデータ転送をせざるを得ない状況でした。こうした属人的な手作業を標準化・自動化し、人為ミス削減や業務の平準化を図ることが課題でした。
導入の目的:WinActor導入の直接の目的は、上記課題の解決、すなわち「バックオフィス業務の徹底的な効率化と標準化」です。間接部門の省力化を通じて業務時間を削減し、従業員がより付加価値の高い業務に注力できる環境を整えること、さらにグループ全体での業務プロセス改革を加速することが狙いです。また、人手不足への対応策や、働き方改革の一環として定型業務による精神的負荷の軽減も意識されました。
自動化した具体的業務内容:KBSでは5年間で約630の業務にWinActorを適用し、自動化を実現しています。代表的な例として、以下のようなバックオフィス関連業務があります:
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営業部門の手作業代替:取引先ごとに異なる商品案内メールの作成・送信業務を自動化しました。サーバ上の複数フォルダから新商品情報(Excelファイル)をかき集め、メール本文を生成して送信する一連の作業をロボットが代行し、担当者は内容確認と送信のみ行うワークフローとしました。その結果、年間150時間の作業削減を達成しました。
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工場部門の横展開:グループ国内の全酒類工場において、各工場でバラバラだった業務フローや書式を統一し、共通化した手順に対してRPAを適用しました。一つのモデル工場でWinActorシナリオを開発・効果検証した後、それを全国の工場へ展開することで、生産現場の業務標準化と効率化を一気に推進しました。この取り組みにより、工場ごとの属人的な手順見直しが進み、現場社員の定型・標準化への意識改革にも繋がりました。
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物流部門の早期立上げ支援:社内システムとEDIサーバの正式連携システム導入までの暫定措置として、WinActorにより受注データのダウンロード・加工・送信を自動化しました。これにより、新システム稼働までの間もお客様への製品供給を滞らせず、迅速なデータ連携を実現しました。この暫定RPAは正式システム稼働後に役目を終え廃止されましたが、暫定期間中に年間最大12,000時間の工数削減に成功しています。
導入プロセス:2017年頃から本格化した働き方改革の流れの中で、KBSは各部門に対し業務プロセスの棚卸しとICT活用による改善策の立案を促しました。その中でRPAが有効な手段の一つとして浮上し、現場ごとにボトムアップで導入可否を判断させる方式を採りました。各グループ会社のICTリーダーが自社拠点で「必要」と判断した場合にWinActor導入を許可し、導入決定拠点にはユーザー向け説明会を実施するなど丁寧に展開しました。導入後はeラーニング教材を社内公開し、社員が自由に学習できる環境を整備するとともに、定期的に講師によるハンズオン研修を開催し社内のRPAスキル醸成を図っています。このように、現場主導と本社支援を組み合わせたハイブリッドな導入により、抵抗感を抑えつつ短期間で多くの部門へ浸透させることに成功しました。なお、工場横展開の事例では、WinActorの設定項目を外部Excelに定義しておき、シナリオ自体の修正工数を最小化する工夫も行い、保守性を高めています。
導入後の成果・効果:KBSによるWinActor活用の効果は顕著で、5年間累計で約194,700時間の業務時間削減を達成しました。メール作成等の煩雑な手作業が大幅に省力化され、人為的ミスも削減されています。「RPA導入前は月数時間かかっていた業務が、導入後はボタン一つ・数秒で完了する」といった劇的な効率化が現場から報告されており、社員からは「単純作業をロボットが肩代わりしてくれるおかげで、人間にしかできないやりがいのある作業に充てる時間が増えた」と好評です。また、RPA導入を契機にグループ全体で業務フローの見直しや標準化が進んだことも大きな副次効果です。さらに、各部門の**“この業務もRPA化できないか”**という意識が高まり、新たな自動化ニーズが次々と寄せられるようになりました。
今後の展望:同社ではWinActorを「業務効率化やプロセス改革のための1ツール」と位置づけており、今後もさらなる活用拡大を計画しています。担当者は「WinActorを活用することでキリンの価値創造を加速していきたい」と述べており、RPAを通じたDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に強い意欲を示しています。具体的には、既に成果の出ている手作業代替だけでなく、AI-OCRやワークフロー連携など他ソリューションとの組み合わせによる更なる自動化高度化も視野に入れているようです。WinActorによる効果がグループ各社で共有されつつあり、グループ全体の働き方改革・業務改革を支える基盤ツールとして、今後も展開を強化していく見込みです。
三菱造船株式会社(重工業・造船)
**企業概要:**三菱造船株式会社は三菱重工グループの造船事業会社で、船舶の建造に必要な資材調達や造船所の運営管理を担っています。同社は2018年に旧来の文書管理システムがサービス終了を迎えることを受け、電子帳簿保存法(電帳法)改正への対応も視野に新たな文書管理基盤を模索していました。2022年施行の改正電帳法では電子取引データのデジタル保存が義務化され、違反時の罰則も強化されたため、紙とデジタル併用の旧来の保存方法(二刀流)から脱却し、完全な電子化対応が急務となっていました。このタイミングでクラウド型文書管理サービス「ClimberCloud」を導入し、その運用自動化ツールとしてWinActorを採用しています。
導入前の課題:各造船所の調達部門では、見積書・注文書など紙の書類が大量に発生し、一部をスキャン・OCRで電子保管する運用と紙保存とを併用していました。紙と電子の二重管理は手間がかかる上、監査時の検索も煩雑で非効率でした。また旧文書管理システムの終了に伴い、新たなシステム選定を迫られましたが、市販ソフトはオンプレミス型で初期投資が高額、かつ電帳法対応が不透明という問題がありました。つまり、低コストで電帳法に確実に適合し、紙文書の整理・保管作業を効率化できる仕組みが求められていたのです。
導入の目的:WinActor導入の目的は、改正電帳法への確実な対応と、紙帳票整理というバックオフィス業務の効率化でした。具体的には、NTTデータグループ提供のクラウド文書管理「ClimberCloud」を採用し、それと組み合わせて調達文書の電子保管フローを自動化することで、人手による紙処理を大幅に削減することです。紙書類の削減によるコストカット、検索性向上による監査対応力アップ、ならびに手入力・紙管理に伴うミスの撲滅が期待されました。また、同社では既に別のRPAソリューションもグループ内で導入済みでしたが、利用可能な日程に制約があったため、この文書管理用途に限りWinActorを新規採用する決断をしています。これはWinActorなら既存システム(ClimberCloud)の操作を自動化でき、手作業部分を減らせるという技術的優位が評価された結果でした。
自動化した具体的業務内容:主な自動化対象は、「資材調達業務における書類の整理・保存プロセス」です。具体的には、見積書・注文書・検収書といった調達関連帳票について、スキャン~データ登録~電子保管までの一連の作業をWinActorで自動化しました。旧システムでは、紙の稟議書類をスキャン・OCRし、人手で文書管理ソフトに登録するというフローでしたが、新システムではClimberCloudへの帳票登録操作をWinActorロボットに代行させることで、人手介在を極力排除しました。例えば、紙の購入要求書をスキャナで読み取り→OCRでデータ化→WinActorが必要項目を抽出・整理してClimberCloudへ自動登録するといった処理を実現しています。このようにして、これまで担当者が行っていた書類の振り分け、台帳記入、PDF化・メール送付など煩雑な事務作業の多くが置き換わりました。
導入プロセス:システム刷新にあたり、まず候補となる複数の文書管理ソリューションを比較検討しました。しかし当時(2020年頃)は「電帳法対応」を明確に謳う製品が少なく、不確実性が高かったこと、またオンプレ型では費用面で折り合わなかったことから決定に至らず、検討は難航しました。そこでNTTデータMHIシステムズ(システム子会社)から、電帳法対応済みのクラウドサービスClimberCloudとWinActorによる運用自動化の組み合わせが提案されました。WinActorでClimberCloud上の操作をスクリプト化することで、人手の関与を減らしつつ新法対応を実現するという解決策です。2021年3月には、このClimberCloud+WinActorを使った新しい調達文書保管スキームが稼働を開始しました。当初、紙中心だった稟議フローを大きく改める必要があったため、段階的導入を採用しています。まず電子化可能な書類から順次WinActorでの登録処理に切り替え、設計部門・工作部門など現場の声もヒアリングしながら、単なる電子化に留まらず業務フロー自体の抜本的効率化も並行して進めました。WinActorのシナリオ開発はClimberCloud開発元のNTTデータビジネスブレインズが担当し、専門家のサポートで短期間に構築しています。こうした慎重かつ着実な導入プロセスにより、システム切替に伴う現場の混乱を抑えつつRPA活用を実現しました。
導入後の成果・効果:新システムへの移行により、年間26万4千枚に及ぶ紙書類の削減と年間960時間の作業時間短縮という顕著な成果が得られました。紙代・印刷費・保管スペース等のコスト削減効果も大きく、WinActorおよびクラウドサービスのライセンス費用を差し引いてもなお大幅な費用対効果が確認できたといいます。人手によるExcel台帳記入やメール添付送信などがほぼ不要となり、ヒューマンエラーも激減しました。特に、紙の注文書類をファイリングしていた従来と比べ、検索性・閲覧性が飛躍的に向上し、監査対応に費やす時間も削減されています。現場からは「紙保存と電子保存の二刀流から解放され、非常に効率的になった」との声が上がっています。さらに、手続きを電子化・自動化する過程で業務フローそのものを見直したことで、不要なプロセスの整理や他部署との役割分担の明確化にも繋がり、組織全体の生産性向上に寄与しました。なお、三菱重工グループ全体を見ると、他部門では既存の他RPAツールも並行利用されていますが、本事例でWinActorが果たした成果(法令対応+自動化)はグループ内でも注目されており、今後同様のニーズに応じた活用拡大が期待されています。
今後の展望:本事例で構築した「ClimberCloud+WinActor」による電子帳簿保存の仕組みは、他拠点や他社でも応用可能なモデルケースとなりました。同社では、まずは社内の調達グループで安定運用させた後、グループ会社の一部門にも展開し始めています(2022年時点)。ClimberCloudはWinActorはもちろん、AI-OCRや他のワークフローシステムとも柔軟に連携できるため、将来的にさらなる書類業務のデジタル化・自動化を進める際にも有力な選択肢になると考えられています。三菱造船では、まず電帳法対応という喫緊の課題をクリアしましたが、今後はこの仕組みをベースに、購買プロセス全体のDXを推進していく方針です。具体的には、調達業務における承認ワークフローの電子化、支払処理の自動化など、関連するバックオフィス領域へのWinActor適用範囲拡大も検討されています。法令対応という守りの側面だけでなく、効率化によって生み出されたリソースをより戦略的な業務に振り向け、業務品質と付加価値向上を図っていくことが目標です。
株式会社オカムラ(オフィス家具メーカー)
**企業概要:**株式会社オカムラはオフィス家具や店舗什器、教育施設用設備、物流機器などの開発・製造を手掛ける大手メーカーで、国内外に約3,500名の従業員を擁します。「豊かな発想と確かな品質で、人が集う環境づくりを通して社会に貢献する」という企業ミッションのもと、2016年8月に業務改革部を新設し、全社横断的に働き方改革を推進してきました。同部では「スピードとチャレンジ」を合言葉に改善施策を模索する中で、2017年に当時国内では導入例の少なかったRPAに着目し、先進的取り組みとしてWinActorを導入しました。
導入前の課題:オカムラでは全国の事業所・支店において、毎月・月末月初に発生する定型の事務処理が各所で重複して行われている状況がありました。例えば売上・請求データの既存基幹システムへの転記、月例会議資料の作成、入金データと請求の照合など、各拠点で似たような処理を行っており、非効率かつ属人的でした。また情報システム部門には各事業部からシステム機能改善の要望が多数寄せられていましたが、要望の中には「システム開発を行うほどではないが現場では手間になっている作業」も多く、こうしたシステムの谷間にある業務を救済する手段がありませんでした。人手で対応せざるを得ない定型作業が各所に点在し、長時間労働の一因ともなっていたため、業務改革部と情報システム部はRPAによる効率化でこれらを解決できないか検討を始めました。
導入の目的:WinActor導入の目的は、全社の定型業務を標準化・自動化して効率化することです。具体的には、全国の拠点で個別に行われていたルーチン事務(経理処理やデータ入力、資料作成など)を洗い出し、業務フローを統一した上でRPAに置き換えていくことで、年間数千時間規模の労働時間削減を狙いました。併せて、RPAで削減できた人的リソースを収益部門へシフトさせ、生産性向上と人員配置の最適化を図るという経営的目的もありました。WinActorはプログラミング不要で現場担当者でもシナリオ作成が容易な点、そしてオカムラ社内で広く使われていた画面操作(ホスト端末の画面ソフト等)にも対応できる点から採用されました。さらに、将来的なロボット管理・運用を見据え、導入当初からロボット統制サーバー「WinDirector」も併用しています。これにより、複数部署・複数ロボットを一元的に管理し、スケジューリングや実行状況のモニタリングを効率よく行える体制を構築しました。
**自動化した具体的業務内容:**オカムラでは様々なバックオフィス業務にWinActorを適用しましたが、主なものを挙げると以下の通りです:
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入金引当業務(経理):毎日発生する入金データを販売管理システム上の売掛金に充当し、入金消込を行う作業を自動化しました。従来は経理担当者が手作業で消込処理を行っていましたが、WinActor導入により入金データの読み込みから照合・引当までをロボットが実行し、担当者の確認のみで完結できるようにしました。その結果、煩雑な照合作業に費やしていた時間が大幅に削減されました。
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受注登録作業(営業事務):受注伝票の内容を基幹システムに登録する作業を自動化しました。各営業拠点で発生する受注情報を、RPAがとりまとめてシステムに一括登録することで、担当者ごとに同じ入力を繰り返すムダをなくしました。特に月末月初に集中する受注入力において、処理ピークの平準化と残業削減に効果が出ています。
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販売会議用資料作成(管理部門):毎月の販売実績を集計し資料化する定例業務について、各種システムからのデータ抽出・Excel集計・グラフ作成といった一連の工程を自動化しました。RPAが複数のデータソースから必要情報を取得し、所定のフォーマットに集約・加工することで、人手によるコピペや転記を解消し、資料作成時間を大幅短縮しました。
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その他多数の業務:この他にも、経費精算データのチェック、在庫管理表の更新、勤怠システムからの残業時間アラートメール送信など、各部署の定型事務が100本以上のWinActorシナリオによって自動化されています。
導入プロセス:業務改革部長の鈴木氏は情報システム部に相談し、RPA導入に向けた社内調整を開始しました。情報システム部でもRPAの情報収集を進め、「現場の手間を減らせるなら」と前向きに検討を開始します。RPAツール選定にあたっては、「開発に手間がかからず簡単に使えること」「既存システム(ホスト端末等)とうまく連携できること」「将来的にサーバー型で運用できること」という条件で複数製品を比較しました。その結果、国内普及率が高くサポート情報も豊富なWinActorを採用することとなりました。導入に際しては、各拠点に散在する類似業務をまず標準化し、統一手順に対してRPA化する手法が取られました。例えば、全国の営業所で個別に行われていた売掛金消込処理について、作業手順を一本化し標準シナリオを作成するといった具合です。また、開発したロボットの集中的な運用管理のため、当初からWinDirector(ロボット統制ツール)を導入して全社のロボットを一元管理しました。これにより、シナリオ実行のスケジューリングやエラーログ収集を中央で制御し、限られたIT人員でも多数のロボットを効率よく運用できるようにしています。さらに情報システム部内にRPA推進担当者を配置し、各部門からのロボット開発相談に乗る体制を整えました。現場の要望を吸い上げ、小規模な作業でもRPAで対応可能なものは積極的にロボット化することで、「システム化できない隙間業務」を解消していきました。
導入後の成果・効果:WinActor導入から数年で、100本以上のシナリオが稼働し、年34,800時間の業務時間削減という大きな成果を上げました。これは社員一人あたりに換算するとかなりの工数に相当し、その分残業削減や有給取得率向上にも寄与しています。加えて「RPAに任せられる業務はすべて任せる」文化が醸成され、定例業務の自動化率が飛躍的に向上しました。例えば、ある定例資料作成は月20時間かかっていたものがRPA導入後は数時間で済むようになり、人為ミスもゼロになりました。また、各拠点でバラバラだった処理手順をこの機に標準化できたため、担当者異動時の引継ぎ負荷軽減や内部統制面の強化といった副次的効果も得ています。情報システム部長の橘川氏は「RPAなら既存システムで救いきれなかった業務にも対応できると実感した」と述べており、現場からの細かな改善要求にもRPAで素早く応えられるようになった点を評価しています。さらに、削減した工数を営業や開発といった収益部門へシフトする取り組みも始まっており、実際にバックオフィスから数名を現場部門に異動させ生産性向上に繋げています。従業員からは「雑務が減り、本来やるべき企画提案など創造的な仕事に集中できるようになった」と好評で、働きがいの向上という点でも効果が見られます。
今後の展望:オカムラでは、RPAを全社で有効活用できる基盤が整ったことから、今後はさらなる高度利用を検討しています。具体的には、現在100本あるシナリオをより横断的なプロセスへ拡大し、エンドツーエンドで自動化できる業務を増やしていく計画です。また、WinActorと他のITツールとの連携(例:OCRとの組み合わせで紙伝票の自動入力、BIツールと連携したデータ分析自動化など)にも取り組み、定型業務から意思決定支援までカバーする包括的なDXを目指しています。さらに、削減した人的リソースの活用についても、単に他部署へ異動させるだけでなく、新規事業やサービス開発に充てるといった攻めの戦略を模索しています。RPA導入を主導した業務改革部長の鈴木氏は「RPAで浮いた時間を従業員がより価値の高い仕事に費やせるよう、これからもチャレンジを続けたい」と述べており、引き続き**「スピードとチャレンジ」精神でRPA活用を深化**させていく意向です。
株式会社カネミツ(自動車部品メーカー)
企業概要:株式会社カネミツは、自動車や農業機械のエンジン周り部品(プーリ等)を製造する中堅メーカーです。独自の鋼板立体造形技術を強みとし、自動車用プーリで国内トップシェアを誇ります。従業員数は約300名ですが、EV車関連部品の受注拡大が見込まれる中での事業拡大を目指し、2016年に社内で業務改善プロジェクトを立ち上げました。当初は工場や生産管理部門の重複作業整理・システム改善を進めていましたが、2018年初頭、金光俊明社長のトップダウン指示によりRPA導入の検討が開始されました。他社でのRPA活用成功例を耳にし、自社でも使えるのではと考えたのがきっかけだったといいます。検討チームがWinActor導入を決定し、同年中に本格運用を開始しました。
導入前の課題:中堅企業である同社は、十分な人員や予算が潤沢にあるわけではなく、業務量拡大に対していかに効率化で乗り切るかが共通課題でした。特に事務系部門では少人数で経理・総務・生産管理など複数業務を兼務するケースも多く、社員一人ひとりの負荷が高まっていました。また将来的なEV部品需要増に備え、人を大幅に増やさずに業務処理能力を上げる必要がありました。このため、限られたマンパワー・予算を有効活用できる体制を築くことが急務と認識されていました。一方、現場には紙の稟議書処理や取引先から送られるデータ入力など手作業中心の事務が残っており、属人的で非効率でした。例えば、社内の稟議書は紙で提出・決裁後、Excel台帳への記録やPDF化してメール送付といった流れをすべて担当者が手作業で行っており、月に数時間を要していました。また、取引先から日々送られてくる出荷データを社内マスタと照合し生産管理システムに登録する作業も担当者の手で行っており、毎日40分程度かかっていました。週次の社内業務日程表を各部署から収集・メール配信・社内掲示する作業も月3時間程度かかっていました。ヒューマンエラーのリスクも抱えながら人手に頼る状況を変えることが課題でした。
導入の目的:WinActor導入の最大の目的は、事務作業の効率化によって限られた人員でも業務を回せる仕組みを作ることです。トップメッセージとして「人がやらなくても良い仕事はロボットに任せ、人はより付加価値の高い仕事に注力しよう」という方針が打ち出され、社員の業務効率を高めて生産性向上と事業拡大に備える狙いがありました。また、RPAにより人為ミスを無くし品質を向上させること、社員の長時間労働是正(働き方改革)にも繋げることが期待されました。経営企画部IR・企画グループの澤井氏は「年間600本ほどある稟議案件の処理に月数時間取られていたが、RPAでそこを短縮し本来の企画業務に時間を充てたい」という問題意識を述べており、そうした声が導入目的の背景にあります。
自動化した具体的業務内容:カネミツではバックオフィスの様々な事務作業をWinActorで自動化しています。特に効果が大きかった例として、次の業務が挙げられます:
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稟議書の決裁通知メール送付(総務・経営企画):紙で提出された稟議書について、決裁後に起案者や関連者へ結果をメール連絡する業務を自動化しました。従来は担当者がExcelの管理台帳に決裁内容を転記し、手作業でメール文面を作成、PDF化した稟議書を添付して送信していました。WinActor導入後は、承認済み稟議のExcel台帳をロボットが読み取り、決裁日・案件名・担当者などの項目からメール本文を自動生成します。さらに、宛先メールアドレスも社員データベースから自動取得し、PDF添付の上でメール送信まで実行します。これにより人手でメールを書く必要がなくなり、月数時間あった作業がほぼゼロ(数十秒程度)になりました。また、一度シナリオを作ってしまえば転記ミス・入力ミスの心配も不要となり、信頼性も向上しました。
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日次の出荷データ処理(生産管理):取引先から毎日メール等で送付される出荷実績データと、自社のマスターデータを照合・加工し、生産管理システムに受入データ登録する一連の作業を自動化しました。以前は担当者がExcelでデータを突合・加工してシステムに入力していましたが、RPA導入後はデータ受信から加工・システム登録までを全自動化しました。その結果、毎日約40分の作業を削減し、担当者に日々の余裕時間が生まれています。このシナリオは情報システム室の中嶋氏と生産管理部門担当者が協力して作成し、テストしながら約30時間で完成させたとのことです。現場とIT部門が連携することで短期間で高品質なシナリオ開発を実現した好例です。
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週間業務日程表の配信(総務):各部署から翌週の予定資料を集約し、関係者にメール配信するとともに社内ポータルへ掲載する作業を自動化しました。従来は担当者が資料を手で集めメール送信・掲載しており、月に3時間程度を費やしていました。WinActor導入後は、ボタン一つで資料収集からメール送信、ページ掲載まで完了するようになり、月3時間の作業が月わずか10秒に短縮されました。担当者からは「非常に楽になった」「ロボットが単純作業を代行してくれるおかげで、本当に人手が必要なやりがいのある作業に時間を使えるようになった」と評価されています。
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仕訳データ入力(経理):会計システムへの仕訳伝票入力作業を自動化しました。各工場が月次でダウンロードして経理部に提出していたExcel帳票を、VBA(マクロ)とWinActorの組み合わせで財務部門が一括処理できる仕組みに改めています。このプロジェクトにより、各工場で行っていた重複作業を財務部でまとめて処理できるようにし、生産管理→経理への情報連携のスピードアップと手作業削減を実現する予定です(現在テスト運用中)。
導入プロセス:金光社長からの指示を受け、業務改善プロジェクトメンバー4名と情報システム室2名によるRPA導入検討チームが組成されました。まず、各部署に「RPA適用業務調査票」を配布し、自分たちの業務内容・工数を洗い出して提出してもらいました。集まった業務リストをチームで精査し、「これ以上効率化が難しい業務」「業務フローや帳票の見直しで効果が出る業務」「RPA化で効果が見込める業務」の3つに大別しました。RPA候補となった業務については、その効果を定量評価し、優先順位付けを行っています。並行してRPAツール選定も進められ、国内で普及していた2製品(WinActor等)に候補を絞り込み、社内業務1つを題材にPoC(実証開発)比較を行いました。その結果、シナリオの作りやすさ・修正のしやすさ、画面が日本語で分かりやすいといった点でWinActorが高く評価され、導入ツールに決定しました。導入初期はクライアント版WinActorライセンス2本をサーバーにインストールし、各部署からリモート接続で共用する形を取っていました。しかし、それでは「ある部署がシナリオ実行中は他部署でシナリオを動かせない」という制約があり不便だったため、ニーズ増加を見越して2020年5月にサーバー対応版(Enterprise版)WinActorを導入しました。これにより複数のロボットを同時並行で実行可能となり、タスクスケジューラ機能で決まった時刻に自動実行させる運用も可能になりました。さらに情報システム室の藤木室長を中心に、現場ヒアリングとシナリオ開発を反復しながら、優先度の高い業務から順次自動化を進めました。シナリオ作成は基本的に情報システム室メンバーが担いましたが、日次出荷データの例のように現場担当者と協働開発するケースもありました。開発後は小規模でも即本番環境で動かし、エラーが出たら即修正するというアジャイル的手法で、次々とシナリオを稼働させています。
**導入後の成果・効果:**RPA化推進から数年で、主要なバックオフィス業務の多くが自動化されました。毎日40分の手作業が削減された出荷データ処理や、月3時間→10秒に短縮された週間日程表配信など、定量的な効果は非常に大きいものがあります。稟議書の通知メールも月数時間の工数が不要となり、他の経営企画業務に振り向けられています。全社で見ると、年間にして1万時間以上の削減効果が既に現れており、限られた人員でも生産性高く業務が回せる体制が整いつつあります。また、転記・入力ミスがゼロになったことで安心感が生まれ、複数人でダブルチェックしていた作業を省略できたりもしています。RPA化の結果が見えるにつれ、各部署から「この業務もRPA化してほしい」という相談が増加し、社内のRPA推進モチベーションが向上しました。導入当初は特定メンバーのみでシナリオ作成していましたが、現在では各部門から選出された担当者が自分たちでシナリオ開発に挑戦する動きも出ています。さらに、海外のグループ会社にもRPA導入を進めており、日本で蓄積したノウハウを展開し始めています。金光社長は「RPAには大きな可能性を見出している。働き方改革を進める上で事務作業においてもRPA推進により社員がやりがいをもって仕事できる環境が整うと考える」と述べており、国内のみならず海外拠点も含めた広範囲でWinActor活用を進めています。
今後の展望:カネミツでは、「人がやらなくてもいい仕事」は引き続きロボットに任せる方針で、更なる業務自動化を模索しています。藤木室長は「中堅企業共通の課題である限られた人員の負荷をいかに分散させるかに対し、当社はWinActorでそれを解決できるようになってきた。今後ますます活用が進めば、人でないとできない“やりがいのある仕事”に充てられる時間をどんどん増やせるだろう」と語っています。コストをかけず上手に効率化を図る工夫を今後も凝らしながら、現場発の創意工夫×RPAで業務改革を深化させていく考えです。具体的には、まだ自動化しきれていない月次決算関連の一部業務や、在庫管理・購買計画立案支援などの分野にもRPA適用を検討しています。また、海外拠点でのRPA展開も含めグローバルで統一的な業務効率化を進めることで、企業全体の競争力を底上げしていく狙いです。トップダウンで始まった同社のRPA推進ですが、現在は各現場からのボトムアップ要望も活発化しており、このトップダウンとボトムアップの相乗効果で一層の成果創出が期待されています。
JFEスチール株式会社(製鉄)
企業概要:JFEスチール株式会社は日本を代表する鉄鋼メーカーで、全国に製鉄所を構え高品質な鋼材を製造しています。同社では2017年より「ワークスタイル変革」と銘打った社内働き方改革を全社展開しており、その具体策の一つとして事務作業時間の削減を掲げ、RPA導入に踏み切りました。RPAツールには、ITスキルのない現場社員でも簡単にシナリオ(操作手順)を作成できることを重視して、WinActorが選定されています。2018年に知多製造所(愛知県)の工場ラインで先行導入され、効果確認後に全社展開が進められました。
導入前の課題:製造現場では、日々の製造スケジュール管理・実績管理・品質管理などに関するデータを社内システムへ入力する事務作業が発生していました。これらは確実性が求められるため人手で行っていましたが、複数システムへの重複入力や、工程間で連続性のある入力作業(例:工程A完了データを受けて工程B開始データを入力)が発生するため、作業負荷と拘束時間が大きいという問題がありました。現場の技能者にとって、本来注力すべき設備改善や品質向上のための分析作業の時間が、事務処理に取られてしまう状況だったのです。また、人が手動入力する以上、ヒューマンエラーによるデータ不整合のリスクも抱えていました。こうした状況から、RPA導入前は**「定型データ入力に追われ、改善活動の時間が十分取れない」**ことが大きな課題となっていました。
導入の目的:WinActor導入の目的は、「製造現場における定型事務作業をロボットに代替させ、生産性向上に繋げる」ことでした。働き方改革の一環として、現場技能者が付加価値の高い業務(設備分析や工程改善など)に集中できる環境を作るため、繰り返しのデータ入力はRPAに任せようという方針が示されました。また24時間稼働の製造業ならではの目的として、夜間・休日のデータ登録を自動化することで人員の負担を減らす狙いもありました。WinActorは日本語の操作マニュアル・サポートが充実しており、現場の担当者自身がシナリオを作成・メンテナンスできるため、IT部門に過度に頼らず現場主導で改善サイクルを回せる点も導入目的に合致しました。
自動化した具体的業務内容:JFEスチール知多製造所で最初にRPA化したのは、製造工程に関連する各種データ入力作業です。主なものとして、製造スケジュール表への予定データ入力、製造実績や品質検査結果の記録入力、さらには複数工程にまたがる進捗データの連携入力などがあります。例えば、これまでは現場監督者が朝礼前に当日生産計画をシステムに入力し、製造後に実績数量や品質値を別システムに転記していましたが、WinActor導入後は所定の時刻に自動でデータ抽出・集計・入力まで完了するようになりました。基幹系システムへの日次データ投入もRPAが代行し、人手の介在を減らしています。特に工程間で連続性が必要な入力作業(工程完了データを次工程開始データとして登録など)についても、シナリオを工夫することでシームレスなデータ連携入力を実現しました。これらにより、土日や深夜に行っていた定例データ登録作業も無人で処理されるようになり、人は結果を確認するだけでよくなりました。
導入プロセス:JFEでは、本社主導と現場主導を組み合わせたハイブリッド導入を行いました。まず本社の業務改革チームがRPAの全社方針・ガイドラインを策定し、モデルケースとして知多製造所でのパイロット導入を支援しました。知多製造所では現場の担当者が中心となり、具体的な対象業務選定・シナリオ開発を進めました。WinActorのシナリオ作成については、システム部門の専門知識がなくても現場担当者が習得できるよう教育し、実際に現場の設備担当者がロボット開発を行いました。パイロット導入の結果、1か月当たり約283時間の作業時間削減効果が確認され、これは現場にも経営層にもインパクトを与えました。成功を受け、2019年以降は他の製造所や本社部門へと適用範囲を広げる全社展開フェーズに入りました(※)。拠点展開に際しては、知多製造所で作成したシナリオやナレッジを横展開し、各現場ごとにカスタマイズする形で効率よくロールアウトしています。またRPA活用に合わせて、現場の業務フロー見直しも進め、紙帳票で回覧していた作業指示書をデジタル化するなど、RPAに適した業務環境づくりも同時に行いました。
※参考:知多製造所での効果確認後、2019年より全社で本格展開予定との報道あり。
導入後の成果・効果:RPA導入により、事務作業に費やす時間が大幅に削減されました。知多製造所の例では月間約283時間、年間にして3,300時間超の削減となり、他拠点でも同様の効果が報告されています。これにより、現場監督者・技術者はその分の時間を品質分析や改善検討など質の高い仕事に充てられるようになったといいます。実際、「朝のデータ入力作業が不要になり、出勤後すぐにデータ分析に着手できるようになった」「残業せずに日報作成や翌日の準備ができる」といった声が上がっています。また、連続した工程間データ入力も自動化できたことで、これまで人手では困難だったリアルタイムな進捗連携が可能となり、製造リードタイムの短縮やタイムリーな管理にも寄与しました。さらに、人手入力が減ったことで入力ミスや抜け漏れが解消され、データ品質が向上しました。「以前は入力作業に追われてヒヤリハットもあったが、今は安心して現場を任せられる」と管理者も評価しています。RPA導入当初は現場から不安視する声もあったものの、実績を示すことで理解が進み、現在では現場の改善ツールの一つとしてRPAが定着しました。全社的にも「RPAでこれだけの時間が生み出せる」という成功体験が共有され、他部門(例えば設備保全計画の自動化や購買部門の定例帳票処理など)でもWinActor活用の検討が始まっています。
今後の展望:JFEスチールでは、RPA導入にまだまだ伸びしろがあると感じています。現在は主に生産関連データ入力に適用していますが、将来的には経理や人事など間接部門の定型業務にも広げていく考えです。またAI技術との連携(例えば画像検査データの自動分析→判定結果をWinActorでシステム入力)など、より高度な自動化にも挑戦する余地があります。製造業におけるDX推進の文脈で、RPAは有力なツールであるため、JFEでは今後も継続的に投資・展開を図る見込みです。実際、同社では全社で数十体規模のロボットを開発し、2ヶ月のトライアルで効果を実感した後、本格導入で半年間で55体のロボットを追加開発するなど高速展開した例もあります。これにより年間7,259時間の削減を実現し、人間の入力ミスも大幅に軽減できたと報告されています。今後もこの勢いを保ちつつ、「人にしかできない業務」へのシフトを更に推し進め、競争力強化と働きやすい職場環境づくりを両立していく方針です。
おわりに
以上、製造業界におけるバックオフィス部門でのWinActor活用事例を複数紹介しました。いずれの企業も**「定型業務の効率化」「人為ミス削減」「省力化による戦略業務へのシフト」という共通の目的のもと、WinActorを導入して大きな成果を上げています。作業時間の大幅短縮(年間数千~数万時間規模)、業務標準化と品質向上、そしてコスト削減**といった効果が具体的な数値で示されており、RPAの導入メリットの大きさが実証されています。また、単に手作業を置き換えるだけでなく、それを契機に業務フロー全体の改善や社員の意識改革につながっている点も重要なポイントです。
製造業は現場のモノづくりに目が向きがちですが、実はその裏側を支える間接部門の効率化が企業全体の生産性向上には不可欠です。本レポートで取り上げた各社の事例は、バックオフィス業務のRPA化が製造業の競争力強化に直結し得ることを示しています。さらに、国内企業においてWinActorが支持される理由として、日本語環境への親和性や現場フレンドリーな使いやすさ、充実したサポート体制などが挙げられます。これらは導入のハードルを下げ、短期間で効果を上げる要因となっています。
今後も製造業における人手不足や働き方改革のニーズが高まる中で、WinActorをはじめとするRPAのバックオフィス活用はさらに広がるでしょう。多くの企業が**「まずはやってみる」スモールスタートから始め、実績を踏まえて社内展開を加速しています。その際、ここで紹介したような成功事例を参考にすることで、自社の課題に合った活用シーンや導入ステップが見えてくるはずです。WinActor導入企業は既に6,000社を超え、製造業でも少しずつ導入が進んでいます。ぜひ本レポートの事例をヒントに、貴社のバックオフィスDX推進にWinActor活用を検討してみてはいかがでしょうか。これからも「人が輝くためのRPA」**としてWinActorが製造業の現場と事務の双方で活躍していくことが期待されます。
参考文献・出典:
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【キリンビジネスシステム】 WinActor導入事例(NTTデータ公式)
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【三菱造船】 WinActor導入事例(NTTデータ公式)
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【オカムラ】 WinActor導入事例(NTTデータ公式)
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【カネミツ】 WinActor導入事例(NTTデータ公式)
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【JFEスチール】 WinActor導入事例・コラム(NTTデータ公式)
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その他:RPA Hack、DX総研などRPA関連メディア記事
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