寒い風が吹きすさぶ道を、一羽の鴉がひとり飛んでいる。目を凝らして見れば、その羽ばたきは少し乱れているようにも見える。冬の空に浮かぶその黒い影は、まるで孤独そのものを象徴しているかのようだ。寒鴉の姿は、ただ空を漂い、ただ風に乗っているだけで、目的もなくただ飛ぶ。だがその飛び方にはどこか迷いがあり、進むべき道を見失っているようにも感じられる。
ふと、鴉が一度方向を変え、また戻ろうとする。けれども、その戻り方がどこか不確かで、まるで間違った道を選んでしまったようだ。飛ぶ先に、同じ景色が広がっている。風に運ばれて、何度も同じ場所に戻ってしまうその繰り返しに、鴉自身もどこか戸惑っているように見える。戻ってきた先に、元いた場所はもはや同じではない。自分が進んだ道の先にあるものが何なのか、確かなものが見えない。
寒鴉が道を間違えて戻るその姿には、どこか人生の不確かさ、そして運命の巡り合わせを重ね合わせることができる。私たちもまた、時として選んだ道を間違え、何度も同じ場所に戻ってきてしまうことがある。戻ってみても、そこにはもう同じものは存在しない。時間が流れ、状況が変わり、過ぎ去った瞬間が二度と同じように訪れることはない。そのことに気づかぬまま、私たちはまた進もうとして、そしてまた戻ってくる。
しかし、鴉は決してその道を諦めない。戻ることは、再び別の道に進むための準備でもあるのだろう。迷いながらも、何度でもその空を飛び続ける鴉の姿は、どこか強さを感じさせる。道を間違えることも、また進む力を育む過程であるのだろう。どんなに戻っても、その先にあるものを確かめるために飛び続ける。戻らないで、進み続けることもまた、鴉にとっての選択肢だ。
寒鴉の不安げな飛翔に、私はひとしきり静かな思索に耽る。間違った道を行き、戻ることの中にこそ、見えてくるものがあるのかもしれない。それは、失われたものを探す旅路ではなく、何度でも進み続けるための試練であり、鴉のようにひたむきに飛び続けることこそが、道を見つける鍵なのだと感じる。
コメント