自由席自由に足を伸ばすマスク

散文
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車窓の外に冬の景色が流れていく。白く霞む山並み、枯れた木々、時折見える小さな町の駅。自由席の車両は空いていて、私は足を伸ばし、深く座席にもたれる。隣に誰もいないことの解放感と、静かに揺れる列車の心地よさ。

マスク越しの呼吸は薄く曇り、車内アナウンスだけが時折静寂を破る。自由席とは言え、ここにいるのはわずかな乗客ばかり。みな思い思いに席を選び、それぞれの距離を保っている。誰とも言葉を交わさず、ただ個々の時間が流れていく。

かつては満席になれば、肩を寄せ合い、膝を窮屈に折りたたんで座ったものだ。けれど今は、空間に余裕がありすぎるほどだ。マスクで表情を隠し、足を伸ばしながら、私はこの静けさを贅沢だと感じるべきなのか、それとも、少し寂しいと思うべきなのか、決めかねていた。

窓の向こうに、雪をかぶった広い野原が広がる。足元の自由を感じながら、それでもどこか見えない境界線に区切られているような気がするのは、マスクのせいなのか、それとも心の奥の何かのせいなのか。列車はただ淡々と進み、私は次の駅の名をぼんやりと眺めていた。

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