世界は広く、けれど不思議なほど近い。赤ん坊の視点に映るものは、すべてが新鮮で、どこか柔らかい輪郭を持つ。師走の薄曇りの空も、灯りに揺れる影も、その小さな目には鮮烈でありながら、まだ言葉にはなり得ない響きのように映るのだろう。抱かれる腕のぬくもりを感じながら、世界を見上げるその視線は、上昇と期待の中に浮かぶ。
冷たく澄んだ空気の中、赤ん坊の視線は、部屋の天井や枝を揺らす冬の風を越え、さらに高く何かを捉えようとしている。彼らにとって「今」という時間は果てしなく広がり、終わりがない。師走の慌ただしさなど、その目には届かない。ただ人々の動き、声の響き、そのリズムに潜むものが、漠然とした安心感を与えるだけだ。
目に映るものは常に上へと続き、赤ん坊の体が抱えられる高さを超えて、空間を飛び越えていく。壁の影、窓際の光、飾られた松の小枝。それらが互いに繋がり、まだ理解されることのない物語を作るように見える。その中で、赤ん坊はただ目を瞬かせ、心の奥底で小さな世界を紡ぎ始める。
やがて、この小さな生命が大地に足をつけ、自ら昇る日が訪れるだろう。そのとき、今見上げている風景はどこか懐かしく、けれど遥か彼方にあるように思えるかもしれない。けれども、その視線の軌跡には、冬の冷たさと温もりが確かに残っている。師走の季節は、赤ん坊の中に見えない記憶として息づき、やがて訪れる未来を支える礎となるだろう。
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