冬の蜂競輪場の大画面

散文
スポンサーリンク

冬の午後、競輪場のスタンドに冷たい風が吹き抜ける。客の姿はまばらで、肩をすくめながら馬券を握りしめる者、無言でタバコの煙をくゆらせる者。それぞれの時間が静かに流れている。

ふと、大画面に目をやる。次のレースの映像が映し出され、選手たちの名とオッズが並ぶ。その光の瞬きのなかを、一匹の蜂が飛んでいた。冬の蜂。動きは鈍く、まるで行き先を見失ったように、大画面の前をゆっくりと漂っている。

冬に残された蜂は、巣に戻ることもできず、ただ生き延びるために飛び続けるという。まるで、競輪場に集う人々の姿と重なるようだった。勝ち続ける者、敗れ続ける者、それでもここに来る理由を、それぞれに抱えている。蜂もまた、ただ飛ぶことだけが生の証なのかもしれない。

やがて、画面が切り替わり、スターターの合図が響く。蜂はふらりと風に流され、大画面の光の中に消えていった。レースが始まり、観客たちの視線は一斉にトラックへ向かう。冬の蜂のことを覚えている者は、もう誰もいなかった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました