二羽の鴨池を小さく使いけり

散文
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冬の午後、池の水は静かに澄み、冷たい空気を映している。その広がりのなかに、二羽の鴨が浮かんでいた。広い水面のどこへでも行けるはずなのに、彼らはただ寄り添うように、小さな範囲を行き来している。

水草が揺れるそばで、二羽はゆっくりと泳ぎ、時折くちばしを水に差し入れる。それ以上、遠くへは行こうとしない。広がる池の大半は静かなままで、風がわずかに波を揺らしているだけだ。まるで、自分たちのために必要な分だけの水面を知っているかのように、彼らは慎ましくそこにいる。

生きるということは、必ずしも広大な世界を求めることではないのかもしれない。目の前の小さな水面を、確かに感じながら過ごすこと。それだけで十分なのだと、鴨たちは教えているようにも思えた。

やがて夕陽が池に映り込み、水面は黄金色に染まる。二羽の鴨は、変わらぬ距離を保ったまま、静かにその色の中へと溶け込んでいった。

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