「今日の夜ご飯は豚汁ね」と妻は言った。
ふーん今日の夜は豚汁か、と思ってから一つ疑問が出てきた。
それは、その豚汁が夜飯のメインかどうか、である。
というのも、私は豚汁というのは食事のメインではなく、あくまで汁物として添え物だと思っている。
メインといったら唐揚げとか、豚カツとか、野菜炒めでもいいが、とにかく今日の白飯はこいつで食いますよ、といった食事だ。
もちろん、豚汁で飯を食うことはできる。
そりゃあ豚汁といったら味噌汁に豚肉や野菜が入ったいるわけで。
そりゃあ飯も進むだろうとは思う。
しかし、あくまで豚汁というのは汁物であり、言うなればふりかけのような存在であると思っている。
あくまでメインではないのだ。
何故こんなに私が豚汁がメインかどうかを気にするかというと、ある一つの思い出があるからだ。
…。
それは大学の食堂なのだが、食堂では毎日A定食とB定食が出されている。
定食の他にはうどん蕎麦や丼、カレー、特別定食などがあった。
定食はご飯と味噌汁、小鉢とサラダに加えてメインのオカズが載って420円。
メインのオカズは大きなお皿で、お盆の上の三分の一くらいを占める。
ある日、豚汁定食というメニューがあった。
食堂の入り口にはサンプルが並べられている。
サンプルはメインのおかずの紹介のみでオカズがズラリといった並べられ方だ。
豚汁定食のサンプルにはもちろん豚汁が置かれていた。
その豚汁は丼に入っており、普段の味噌汁の器よりも大きな器に入っていた。
注文すると、ご飯を渡された後、豚汁がドン!と渡された。
自分で小鉢とサラダを取り、以上、である。
お盆の上にはご飯、豚汁、小鉢、サラダであった。
普段定食を頼むとメインのオカズがお盆の上の三分の一を占めているのだが、豚汁定食では味噌汁が無くなり、更にオカズのお皿が丼になるため、その面積は更に小さくなりお盆の上はスカスカである。
いや、お盆の上がスカスカなことは他の時でもある。
うどんとか頼むとうどん一杯だけなので、皿の上は小さな孤島のようになっている。
しかし、それはうどんを食べよう!という断固たる決意の上に成り立っている孤島である。
しかも、うどんを食べよう!と思っている人というのはよっぽどのうどん好きか、金がなくて節約しようとしている人なので、お盆の上が華やかだと逆に圧倒されてしまいまずいことになってしまう。
なのでうどんを頼む人のお盆の上はうどん一杯のみで十分なのだ、むしろちょうどいい。
しかし、定食は違う。
定食を頼む人は、毎日の昼飯に希望を持ち、今日の昼は何かななんて午前中はずっと考えているだろう。
コロッケかなあなんて考えて、ソースをかけようかマヨネーズをかけようかなんていうことも考えているだろう。
ようするに、昼飯に対して期待・希望・夢を持っているのだ。
そんな人たちに対して、メインのオカズが豚汁一杯というのはあまりに酷ではないだろうか。
そう、酷なのである。
もちろん豚汁でご飯を食べることはできる。
しかし、食べれる、というのは、食べたい、ではなく、どうしても食べろっていうなら食べることはできますけどね、という食べれる、である。
何が言いたいかというと、もう一品オカズが欲しかった。
味噌汁を豚汁に代替させてしまった分を、何かもう一品で補ってもらいたかった。
これが例えば、あとコロッケが一個ついたら相当豪華な食事だっただろう。
お盆の上には、ご飯、豚汁、小鉢、サラダ、そしてコロッケ。
これだけあればお盆の上も華やかである。
これがシュウマイ二個でも良い。
シュウマイ三個までいくと、豪華すぎる。
食堂に対して申し訳ない気持ちになってしまうので二個くらいがちょうどいい。
あくまでも食堂とは対等な関係でありたい。
借りを作るわけにはいかないのだ。
なんか話がとっ散らかってしまった。
思えばあの時から豚汁定食は頼んでない。
頼まなくなると不思議なもので、豚汁定食が一切目に入らない。
そうして豚汁定食の事を忘れていたのだが、ある日、皆様の希望により復活!豚汁定食、というお知らせがあった。
豚汁定食いつの間にか消えてたんだ、という気持ちと、人気あったんだ、という不人気情報と人気情報を目にした。
その日また久しぶりに豚汁定食を頼んでみると、出されるのはやっぱり豚汁一杯だけで、お盆はやっぱりスカスカだった。
…。
今日の夜飯、豚汁の他に何かオカズがあればいいなあと思いながら食卓につく。
豚汁を見てみると、具がサツマイモだった。
サツマイモ!?
そんなものはオカズにならないだろう、と妻に言おうとしたが飲み込んだ。
いいじゃないか。
そう、オカズじゃなくてもいいじゃないか。
こうすることで豚汁はオカズという呪縛から解放されるんだな、とそう思った。
食卓には豚汁の他には白ご飯と煮魚が並んでいた。
私のご飯は妻のよりも少し多く盛られており、まだ温かいそのご飯には薄い膜のように湯気が纏わりついていた。
おわり
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