秋の蚊や一人静かに食べる菓子

散文
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秋の夕暮れ、薄暗くなる部屋の中で一人静かに菓子を口に運ぶ。窓辺のカーテン越しに漏れる淡い光が、どこか冷ややかで、秋特有の乾いた空気を帯びている。少し甘さを控えた菓子の風味が口の中でゆっくりとほどけ、微かな秋の寂しさが、まるでその味わいに染みついているかのように広がっていく。

その静寂を破るかのように、ふと耳元で秋の蚊が羽音を立てて飛び回る。蚊取り線香のほのかな煙もかいくぐって現れるその小さな影は、夏から取り残された命の残響のようだ。手を振り払ってみても、蚊はゆっくりと窓辺に逃げ、再び静かに漂いながら、部屋の中に消えていく。耳を澄ませば、どこか遠くで虫の声が、夜の訪れを告げるように響いている。

ひとりで食べる菓子の甘さは、いつもとは違う感触をもたらす。誰かと分け合うことなく、ただ自分のためだけに味わうその瞬間には、言いようのない孤独と贅沢が潜んでいる。季節が秋に移るごとに、こうしたひとりの時間が少しずつ増え、部屋にはひんやりとした寂寞が染み渡っていく。

菓子がすっかり消え、手の中にわずかな甘さの余韻が残る。耳元の蚊の羽音もいつの間にか聞こえなくなり、ひとりの部屋に静かな秋の夜が忍び込む。誰にも邪魔されず、ただ自分だけの時間を味わうことの心地よさと、その裏に潜む秋の静けさが、夜の帳とともにゆっくりと降りてきた。

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