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散文

犬ふぐり思い出してムカつく

犬ふぐりの小さな青い花が、道端の土にへばりつくように咲いていた。春の光に透ける花びらは、空の青さをそのまま写したようで、一見すれば穏やかな風景の一部に過ぎない。けれど、その花を見つけた瞬間、胸の奥からじわりと古い怒りが湧き上がる。あの時、誰...
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麗らかやステーキ三五〇グラム

春の日差しが窓から差し込み、テーブルに置かれた皿の上でステーキが湯気を立てている。焼き目の香ばしさと肉の脂が混じり合い、麗らかな昼の空気にゆるやかに溶けていく。三百五十グラムという数字は、まるでこの幸福に必要な重みそのもののようだった。ナイ...
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人生の中心にいる蝶々かな

人生のどこか決まった場所に、蝶がひらりと舞っている。誰のものでもない空を滑るように、あの羽ばたきは、いつからここにいたのだろう。生まれた時からかもしれないし、あるいは気づかぬうちに入り込んだものかもしれない。けれど、気づけばその蝶は、人生の...
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散文

風車掴まれ持ち上がり落ちる

風が吹くたび、風車は忙しなく回る。青い空を背に、赤や黄色の羽根がきらきらと光を弾いていた。子どもの小さな手が、その回転をどうにか掴もうとする。指先が風車に触れた瞬間、風は思いがけず強くなり、風車ごと子どもの腕を引き上げる。一瞬、浮き上がるよ...
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春昼のチョコ無き家にいる家族

春昼の光はやわらかく、カーテン越しに部屋の隅々まで届いている。窓の外では風もなく、花の匂いさえ部屋には届かない。ただ静かな昼の光だけが、そこにいる家族を淡く包んでいた。テーブルには何もなく、チョコレートひとつ見当たらない。贈るでもなく、欲し...
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桜鯛強い絆の作り方

桜鯛の鱗は、春の光を集めて淡く輝いている。水揚げされたばかりのその身体には、海の匂いがまだ濃く残り、硬い背には潮風の記憶が宿っている。祝いの席に供されるその姿は、ただ美しいだけでなく、人と人を結ぶ象徴でもあった。強い絆は、華やかな宴だけで生...
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四匹固まり一匹遊ぶ春の鴨

春の光が水面に散らばり、鴨たちが浮かんでいる。四羽は寄り添い、羽を膨らませながら水に身を任せていた。互いの羽根がかすかに触れ合い、沈黙のまま温もりを分け合っている。少し離れたところで、一羽だけが水を蹴り、ひとり遊んでいた。水面を滑るように進...
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水温む鯉池の端にぶつからぬ

春の光が水面にほどけ、池の鯉がゆっくりと泳いでいる。冬のあいだ沈んでいた体を、ようやく水の表に浮かび上がらせる。水温む頃の鯉は、驚くほど静かだ。泳ぐというより、ただ水とともに流れているように見える。池の端へ向かうかと思えば、ふわりと身を返し...
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水落ちる傍に椿の落ちてをり

水の音が、途切れることなく耳を打つ。石の間から流れ落ちる細い水筋は、光をかすかにまといながら、冷えた土へと染み込んでいく。ふと、その傍らに目をやると、赤い椿がひとつ、ころりと落ちていた。落ちたばかりの花は、まだ傷ひとつなく、むしろ生きている...
散文

花嫁と夫と梅とカメラマン

春の庭に、白い衣がふわりと揺れた。花嫁の裾を、まだ冷たい風がそっと掬い上げる。傍らには新しい夫が立ち、ぎこちなくも優しい手つきでその裾を整える。並んだ二人の足元に、梅の花びらがひとひら舞い落ちた。カメラマンは、少し離れた場所からファインダー...
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