秋の園好きなところに座りなさい

散文
スポンサーリンク

秋の園は、まるで静寂そのものが広がる空間だった。少し色褪せた草と、赤や黄に染まった木々が揺れる中、思い思いに腰を下ろせばいいと言われて、どこに腰を落ち着けようかとしばし立ち尽くす。風がふと吹き抜けるたび、落ち葉がさらさらと舞い、枯れ草がやさしく揺れる。あてもなく歩みを進めながら、そのまま地面に腰を下ろすと、周囲の景色が心に溶け込んでくる。

この季節には、誰のものでもない時間がぽっかりとそこに佇んでいるように思える。隣に誰かが座っていても、互いに沈黙を守りつつ、それぞれの秋の心象風景をひそやかに共有することができる。不思議なもので、ただ一緒にいるだけで満たされるこの感覚は、秋という季節が生む独特な心の距離感なのかもしれない。言葉もいらず、ただ風の音や落葉の静かなざわめきだけが、共にいる証のように感じられる。

ふと顔を上げると、枝先に残るわずかな紅葉が光を受けて輝き、その儚さが胸を締め付ける。季節の巡りとともに、すべてのものが移ろい消えていくことの悲しさが、いつも以上にひしひしと伝わってくる。好きなところに腰を下ろし、ただ無言でそこにいるだけで、秋の園は、私たちが日々見逃してきた静かな時間と記憶を蘇らせてくれる。

秋の園は、人を静けさの中で一人にしながらも、どこかでその孤独を温かく包んでくれている場所だ。好きなところに座り、ただ秋の音に耳を澄ませるひととき。そうして心のどこかで、また次の季節が巡りくることを静かに待ち受けているのかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました