建設の柵の新築春の暮

散文
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夕暮れの光が、工事現場の柵を斜めに照らしていた。春の空気はまだ冷たく、鉄の柵はその冷たさを抱えたまま、新しい建物を囲んでいる。ここに何が建つのか、誰が住むのか、まだ誰も知らない。けれど柵はすでに、未来の輪郭を静かに守っている。

新築の壁は白く、塗られたばかりの匂いがわずかに残っている。暮れていく光の中で、窓のガラスが鈍く光り、そこに映る空は思いがけず広い。人の気配もなく、ただ無言の柵と建物だけが、春の夕暮れに浮かんでいる。

春の暮れは、終わりではなく始まりに近い。日が沈みきるその前に、ほんのり残る明るさが、新しいものの行く末を祝うように伸びてくる。柵に貼られた注意書きの紙が、風に少し揺れる。それも、春のひとこまに過ぎない。

誰もが暮れの光に目を細め、新築の前を通り過ぎる。ここに建つものが、いつか暮らしの一部になる日が来ることを、まだ誰も実感していない。ただ春の暮れだけが、すべてを見下ろし、柵の向こうに小さく未来を隠している。

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