コンビニで買う寒卵割れるなよ

散文
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夜のコンビニの冷たい照明の下、卵のパックをそっと手に取る。指先に伝わるのは、ひんやりとした感触。寒卵——冬の冷え込みのなかで育まれ、白身が締まり、黄身が濃厚になったもの。それを、慎重にレジへ運ぶ。

「割れるなよ」と、心の中で呟く。買い物袋に入れた卵は、店を出た瞬間から危うい存在になる。歩くたびに揺れる袋の中、予測できない段差、ふとした不注意——そのどれもが、小さな殻を脅かす。冬の夜の冷たい空気のなか、まるで自分の手のなかに、小さな命を抱えているような気さえしてくる。

寒卵は、その季節ならではの濃厚さを持つ。割らなければ、その中身の力強さを知ることはできない。しかし、無造作に扱えば、ただの崩れた欠片になってしまう。慎重に、けれど、いつかは割るために持ち帰る。その矛盾を抱えながら、私は慎重に歩を進める。

家に着き、そっと袋を開ける。卵は無事だった。手のひらに乗せ、ほっと息をつく。割れるべき時に、正しく割ること。それは、卵だけでなく、あらゆるものに通じることのように思えた。

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