風車掴まれ持ち上がり落ちる

散文
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風が吹くたび、風車は忙しなく回る。青い空を背に、赤や黄色の羽根がきらきらと光を弾いていた。子どもの小さな手が、その回転をどうにか掴もうとする。指先が風車に触れた瞬間、風は思いがけず強くなり、風車ごと子どもの腕を引き上げる。

一瞬、浮き上がるような感覚があった。足が地面を離れ、身体がふわりと宙に放り出される。けれど次の瞬間には、重力に引き戻され、子どもは地面に座り込んでいた。掴んだはずの風車は、風に負けて手を離れ、草むらの中へ転がっていく。

泣くほどの痛みもなく、笑うほどの面白さもない。何が起きたのか、自分でもうまく呑み込めないまま、ただ風車だけを目で追った。風に運ばれる風車は、回り続けながら、まるで誰のものでもない風景へと溶けていく。

掴んだものに持ち上げられ、そして落ちる。その短い瞬間に、風の力と身体の重さと、世界に触れる感覚がすべて詰まっている。春の風は、ただ優しいばかりではない。その手に触れようとする者を、一度空に浮かせ、そして地面に返す。風車は今も、どこかで回り続けている。

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