春昼の光はやわらかく、カーテン越しに部屋の隅々まで届いている。窓の外では風もなく、花の匂いさえ部屋には届かない。ただ静かな昼の光だけが、そこにいる家族を淡く包んでいた。
テーブルには何もなく、チョコレートひとつ見当たらない。贈るでもなく、欲しがるでもなく、ただ黙ってその場にいる。特別な甘さがなくても、この春の昼には、どこか満たされた空気があった。
誰かが新聞を広げ、誰かが窓の外をぼんやり眺める。会話は途切れがちで、けれどその沈黙も、悪くない。甘いものを介さなくても、言葉に頼らなくても、同じ空気を吸っているだけで伝わるものがある。
チョコ無き春昼に、そこにいる家族。ほんのり暖かく、けれど輪郭は淡く、手を伸ばせば消えてしまいそうなひととき。何もないからこそ、ひとつひとつが静かに染み込んでいく。春の光に溶けるように、家族の気配だけが、そこに確かに息づいていた。
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