我以外の家族見送る旅始

散文
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朝の冷たい空気の中、家族を見送る。玄関の扉が開き、次々と外へ出ていく背中を見送りながら、私はただ静かにその光景を眺めていた。足音が遠ざかるたびに、家の中の空気が少しずつ変わっていく。つい先ほどまで聞こえていた何気ない会話も、今はもうない。ただ静けさだけが、取り残されたようにそこに残る。

旅立つのは私ではなく、彼らだった。荷をまとめ、支度を整え、外の世界へと踏み出していく家族。その後ろ姿に、寂しさと安堵が入り混じる。自分だけがこの場に残るという感覚が、奇妙な重さを持って胸に落ちる。しかし、それは決して悪いものではなく、むしろ一つの節目のようにも感じられた。

彼らが去ったあとの家の中は、まるで異なる空間のように静まり返っている。時計の針の音がやけに大きく響き、窓の外の風の音が、これまでになく鮮明に耳に届く。私はその静寂をじっと味わいながら、ふと、自分の時間がここから始まるのだと気づいた。彼らの旅の始まりが、同時に私自身の新しい時間の始まりでもあることに。

見送ることは、決して終わりではない。むしろ、それは何かが動き出す瞬間でもあるのだろう。扉の向こうに消えていった家族を思いながら、私は今、ここにいる自分の旅を、静かに始めることにした。

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