急に雨が降って来た。
家を出た時は曇りだったのだが、それからすぐに降り出して来た。
傘を持たずに家を出てしまったので濡れたまま進むしかない。
幸い、今日は平日なので人通りも少ないし、雨音が大きいから多少大きな声を出しても気づかれないはずだ。
そう思いながら歩いていると……
ドンッ!
いきなり横合いから誰かにぶつかられた。
よろけそうになったが何とか踏み留まる。
しかし、その拍子に手に持っていたカバンを落としてしまう。
慌てて拾おうとした時、相手も同じ様にしゃがみ込み、俺よりも先にカバンを拾い上げた。
そしてそのまま立ち去ろうとする。
俺は反射的に腕を伸ばしてその男の腕を掴んだ。
だが、掴んだと思った瞬間、男の姿は消えていた。
まるで最初からそこにいなかったかの様に……
(なっ!?)
思わず息を飲む。
今目の前で起こった事が信じられなかった。
いや、信じたくはなかったのだ。
(そんなバカな事があるはずがない。幻覚でも見ていたのか?)
そう思うが、現実に男が消えた事は紛れもない事実だ。
自分の目を疑うなんて事はない。
取り敢えず落としたカバンを拾おうとして気づく。
いつの間にか雨脚が強くなっていた。
このままここにいたら間違いなくずぶ濡れになるだろう。
仕方ないので一度家に戻ろうと踵を返す。
強くなった雨は肩を濡らし、そろそろ肌着も濡れて来ているようだった。
(帰ったら一度着替えようかな。)
そう思い、家に向かった。
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