散文 屋根のある電話ボックス春近し 街角に佇む小さな電話ボックス。かつては人々の声を運び、約束を交わし、時には切なさを閉じ込めていたその空間も、今はほとんど使われることがなくなった。ただ、ガラス越しに見る景色だけが、ゆっくりと季節の移ろいを映している。屋根の下に守られたその空... 2025.02.19 散文
散文 初旅の古きパンツを持ち帰る 旅の終わり、荷物をまとめながら、ふと手に取った一枚のパンツ。出発の日と同じように、静かにそこにある。それは、新しい土地を歩き、見知らぬ空気をまとい、旅の時間をともに過ごした証だった。旅先で目にした景色、触れた風、交わした言葉。そのすべては記... 2025.02.19 散文
散文 初旅に古きパンツを持つて行く 旅支度を整えるなかで、ふと手に取った一枚のパンツ。色褪せ、少し柔らかくなった布の感触が、指先に馴染む。新しい年の最初の旅なのだから、すべてを新調してもよいはずなのに、なぜかこれだけは手放せなかった。長い間ともに過ごし、幾度となく旅にも連れ出... 2025.02.19 散文
散文 正月の三本足と二本足 朝の空気が澄みわたり、新しい年の光が街を静かに照らしている。まだ人影の少ない道を歩くと、鳥たちが地面をついばみ、忙しなく動いているのが目に入る。その足跡は、三本の指を広げた形で土や雪の上に残され、まるで見えない書を記すかのようだ。やがて彼ら... 2025.02.19 散文
散文 それぞれに役割を持ち今朝の春 朝の光がやわらかく差し込み、静かな空気のなかに春の気配が滲む。冬の名残がそこかしこにありながら、ふとした瞬間に感じる温もりが、新しい季節の訪れを告げている。庭の木々はまだ眠るように佇み、鳥たちは控えめにさえずる。そんななかで、人もまた、それ... 2025.02.19 散文
散文 初景色始点終点見えぬ川 新しい年の朝、遠くまで続く川を眺める。水面には冬の陽が淡く反射し、静かに流れていく。その川の始まりはどこなのか、終わりはどこなのか、見渡しても分からない。ただ、今この瞬間も、絶え間なく水は流れ続けている。人生もまた、この川のようなものなのだ... 2025.02.19 散文
散文 我以外の家族見送る旅始 朝の冷たい空気の中、家族を見送る。玄関の扉が開き、次々と外へ出ていく背中を見送りながら、私はただ静かにその光景を眺めていた。足音が遠ざかるたびに、家の中の空気が少しずつ変わっていく。つい先ほどまで聞こえていた何気ない会話も、今はもうない。た... 2025.02.19 散文
散文 初夢の扉に取手無かりけり 夢の中に現れた扉は、確かにそこにあった。けれど、その扉には取手がなかった。木目の美しい滑らかな表面、僅かに光を反射する静かな佇まい。しかし、それを押し開く術はどこにも見当たらなかった。私はただ、扉の前に立ち尽くし、その先に広がるはずの世界を... 2025.02.19 散文
散文 見えるもの鏡に映り去年今年 鏡の中に映るものは、ただの像ではない。それは昨日の私と今日の私、過ぎ去った時間とこれからの時間、その狭間に揺れる曖昧な存在のかたち。何も変わらぬように見えて、ほんのわずかに異なる表情がそこにある。光の加減か、心の影か、その違いを見極める術は... 2025.02.19 散文
散文 窓今日も光を通し年新た 朝の光が静かに部屋の中へと滑り込んでくる。柔らかなカーテンを透かし、壁や床に淡い影を落としながら、新しい年の気配を運んでいる。昨日と変わらぬ窓辺に立ち、ふと指先で硝子をなぞると、ひんやりとした感触が肌に沁みた。冬の冷たさとともに、清冽な空気... 2025.02.19 散文