笹2022年3月号(507号)の感銘句を紹介します。
Contents
伊藤敬子創刊主宰の一句(石太郎抄出)
花ふぶき幾歳月の名古屋城 伊藤敬子(句集『千艸』より)
幾歳月もの時を経た名古屋城が桜の花吹雪に包まれて壮麗な姿を見せている情景を思わせる。春先に吹く強い風のあとに桜の花びらが舞い散る。この強い風に吹かれて桜の木から落ちた花びらは幾歳月を経てもなおその色鮮やかに記憶される。そして、名古屋城もまた幾歳月を経ながら今なお壮麗な姿をとどめている。
朱竹集
歳晩やわたしの味に蓮根煮る 柴田鏡子
わたしの味ができるまでにはいろいろな苦労があったはずだろう。年末に蓮根を煮ているときにふと過去に思いを巡らせた様子を感じさせる。
昆虫に体内時計春隣 佐藤美恵子
昆虫に体内時計はあるのだろうかという疑問が湧いてくる。もうすぐ春が来て虫たちの動きも活発になるだろう。単純に見える昆虫の体内にある時計はどのようにして動いているのか。なんとなく、砂時計を想像した。
病窓に鶴舞公園雪景色 小澤昭之
鶴舞公園の近くには名古屋大学附属の大きな病院がある。鶴舞公園も大きな公園である。高い病窓から見下ろした大きな公園の雪景色はまるで一枚の絵のように美しい。
金鯱に雪美しきあしたかな 三輪洋路
金鯱の金色が雪に映えて美しい。しかしその美しさはどこか哀しく、雪は金の輝きと違い明日には消えてしまうかもしれない。今日にも消えてしまうかもしれない雪と、どうなるかわからない明日への希望は同じように美しく感じられる。
竹林集
雪道や出会ふ人々皆やさし 川口明子
雪に慣れていないのか、いつもより注意深く歩いているのかもしれない。そんな中で出会う人が皆優しいということはとても幸せなことだと思う。
重力をひらひらかはし落葉かな 櫨高子
落葉が舞い落ちるさまに重力を感じたのだろう。面白いのは落ち葉がひらひらと横に動くさまに重力を発見したことで、重力を落ちてゆく物体として捉えている。その発想が何とも面白い。
呉竹集
ライオンのあくびまねする小春かな 栄馬啓子
この句は、春のように暖かな日に動物園で呑気にあくびをするライオンを見たのだろう。ライオンのあくびは喉が大きくゴロゴロと鳴り、その音が心地よさそうで優しい風景が見えてくる。
冬うらら波待ちサーファー富士を背に 江副京子
冬うらら、波待ち、サーファー、富士、背とたくさんの要素がある。これらの要素は一見バラバラのようでいて富士を中心に繋がっているように感じる。富士がすべてのものを引き寄せているように見え、富士の特別な力を感じることができる。
曼珠沙華お父さんに会へましたか 三須玲子
この句は独特なリズムで、なんともいえぬ哀感が漂っている。そして、どこかしら淋しさの中にも温かさが感じられる。この言葉は誰から問いかけられたものなのだろう。また、記憶の中のお父さんはどんな人だったのだろう。赤い曼珠沙華と記憶の中の父には何か共通したものがあったに違いない。
自句(児嶋ほけきよ、呉竹集)
寅年や初日這ふやうに登り来
元旦の給湯器より湯のごぽぽ
味噌かつやトリックアート年暮るる
献血の呼び掛けの声降誕祭
成人の日の麻雀やメンタンピン
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