春の光が、やわらかく地面を撫でていた。陽だまりの中、犬が一匹、直立したまま微動だにせず、遠くを見つめている。風もなく、音もない午後の庭に、その姿はまるで置き石のように静かだった。
目を細めるその表情には、眠気とも、退屈ともつかぬ穏やかさが漂う。春の空気にほどけていく身体の力を、犬自身も持て余しているのかもしれない。何かを待つでもなく、何かを求めるでもなく、ただそこに立っている。それだけで、長閑という言葉が形を持つ。
直立した背に差し込む光は、冬に縮こまっていた毛並みを淡く照らす。固く凍っていた地面も少しずつ緩み、犬の足元には小さな影が伸びていた。その影の輪郭さえも、春の光に溶けていくように淡い。
目を細めた犬は、何を見ているのだろう。過ぎた冬か、遠い空か。それとも、何も見てはいないのかもしれない。目を開けることさえ惜しいほどに、長閑な時間だけが、犬のまわりに広がっていた。
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